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デジタル分野のデカップリングはどこまで可能か

すべてを自生化する必要はない、問題は自生化の範囲だ

塩原俊彦 高知大学准教授

 ロシア語で書かれた文献のなかには、ときどき興味深いものがある。そうした記事や論文に触発されて、深く考えなければならないことがある。ここでは、「主権争いに備えよう!」というタイトルのロシア語雑誌『エクスペルト』に掲載された記事(2020年9月21日付)を紹介しながら、デジタル分野でのサプライチェーンの分断(デカップリング)の問題について考察してみたい。

ソ連の再現か

拡大Shutterstock.com

 この記事の冒頭、「ソヴィエトのチップは世界最大である」という話が紹介されている。半導体チップをなかなか極小化できずにいたソ連の技術を揶揄する笑い話だが、こんな結果になったのは、ソ連が原料から製品までのすべてを自国製にこだわっていたからであった。米ソの冷戦下で、「産業のコメ」とも呼ばれていた集積回路などを外国に依存すれば、制裁などで自国に甚大な被害をもたらしかねないため、ソ連は半導体の自国製造に腐心したわけである。

 もちろん、こんなやり方ではコスト負担がかさみ、最先端の技術に追いつくことが難しくなる。国際分業を前提に、安価で優れた製品を輸入して利用すれば、より大きな便益をより低コストで享受できる。

 にもかかわらず、ドナルド・トランプ大統領の登場後、米中対立が深まるなかで、とくにデジタル分野での対中警戒感が強まり、これまでの国際分業に黄色信号がともるようになっている。暗号システム、情報技術(IT)システム、ネットワーク、末端コミュニケーション装置にバックドアのような脆弱性をもたせるように仕組む戦術があり、それを実践している米国政府は、中国政府が同じようなことをできるだけの技術力をもっている現状に大きな危惧をいだいている。

 この危惧が強迫観念にまで至ると、かつてのソ連のように、「デジタル分野のハードもソフトもすべて自国製でなければならない」と言い出しかねない。少なくとも軍製品だけは「メイド・イン・アメリカ」を義務づけるかもしれない。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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