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米大統領選が意味するのは「アメリカン・デモクラシーの終焉」なのか

トランプは歴史の「逸脱現象」ではない

三浦俊章 朝日新聞編集委員

 アメリカ大統領選は、民主党のバイデン氏優位という事前の世論調査をくつがえして、共和党のトランプ大統領が大接戦を演じている。開票作業をめぐる法廷闘争も始まり、当選者が確定するまで、長い混乱は避けられそうもない。

 しかし現時点でも、はっきり言えることがある。この4年間、失言や迷走を繰り返し、アメリカの威信を失墜させ、あげくにコロナ対策に失敗して20万人を超える犠牲者が出ているのに、アメリカ国民の半分は、なおもこの人物を熱狂的に支持している。トランプ現象は、もはやアメリカ史の「逸脱」や「例外」ではない。アメリカ社会に深く組み込まれた現象なのだ。

 それはこの100年間、世界を照らしてきた「アメリカン・デモクラシーの理念」の終焉を意味するのかもしれない。

トランプは原因ではない。結果である

 4年前の2016年10月。前回のアメリカ大統領選の1カ月前のことだ。私は出張でアメリカとドイツを訪れ、外交官や政治学者らと意見を交換する機会があった。ロサンゼルスで会ったある東アジアの専門家は、私がトランプ当選の確率をたずねると、「アメリカは黒人のオバマ大統領を2度も当選させたのですよ。そういう国民がトランプを選ぶことはありえません」と笑って答えた。アメリカのリベラルな知識層では、それが標準的な見方だった。

トランプ大統領の当選を伝えるドイツのシュピーゲル誌の表紙(2016年11月12日号)。表紙には「世界の終わり(DAS ENDE DER WELD)」とある
拡大トランプ大統領の当選を伝えるドイツのシュピーゲル誌の表紙(2016年11月12日号)。表紙には「世界の終わり(DAS ENDE DER WELD)」とある
 だが、続いて訪れたドイツでは、だいぶトーンが違った。外交を担当する首相府の幹部は、「トランプは原因ではありません。アメリカ政治が劣化した結果なのです。私たちはこういうアメリカに備えなければならない」と深刻な表情を見せた。あるジャーナリストは、声をひそめて「トランプはデマゴーグですよ。私たちはこういう人物の恐ろしさを知っているのです」とも言った。誰を示唆しているかは明確だった。ドイツの政治家や知識人たちの方が、トランプへの警戒心がはるかに高かった。

 4年後のいま、私はドイツの識者の警告が正しかったと思う。

 トランプには様々な問題がある。女性蔑視、一貫性の欠如、衝動的な言動、恒常的にうそをつくこと、科学や専門家の軽視、公私混同……挙げていくときりがないが、もっとも深刻なのは、民主主義を支えているルールの尊重や意見の多様性を認めていないことだろう。自分にはむかう者は敵とみなして、あらゆる手段を行使する。大統領選の最中に慣例に反して最高裁判事を任命し、司法すら政治の手段とする。開票途中で一方的に勝利宣言をして、選挙の公正さを一切の証拠なしに否定する。民主主義とは、時には自分の側が負けることを認めることである、という基本を否定しているのだ。

 そしてさらに大きな問題は、そういう大統領の振る舞いを、アメリカ国民の半分が支持していることだろう。

 支持基盤の最大勢力は、福音派と呼ばれる保守的なキリスト教徒である。彼らの道徳観からすれば、女性スキャンダルにまみれたトランプは軽蔑すべき存在のはずだが、彼らが望む保守的思想を持つ連邦判事を任命してくれる限りは、一切の不道徳な振る舞いも許容される。ビッグ・ビジネスにとっては、税金を下げさえしてくれればよい。アメリカ第一主義者たちは、トランプがアメリカの海外関与を減らしてくれれば大歓迎だ。白人至上主義者たちは、移民排斥を叫ぶ大統領を自分たちの応援団だとみなしている。みんな自分の利益を守ることだけを考え、民主主義的価値など、どこ吹く風である。

 4年前には大半がトランプ氏に批判的で、しぶしぶ彼を大統領候補にした共和党が、今ではすっかり乗っ取られた。議員たちは大統領を批判すると自分の議席を失うとおびえきっている。穏健な共和党員は絶滅危惧種である。中道保守の共和党は、トランプ党になってしまった。

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筆者

三浦俊章

三浦俊章(みうら・としあき) 朝日新聞編集委員

朝日新聞ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長などを経て、2014年から現職。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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