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米大統領選が示した国内分断の深化と対中国軍事対抗路線の日本への影響

バイデン氏の勝利が確実に。日本にとってより重要なのはアメリカの対中軍事政策だ

山本章子 琉球大学准教授

オバマ大統領なくしてトランプ大統領なし

 オバマ前大統領とバイデン氏は、エリートでリベラルな思想を持つ中央政界の経験者だ。彼らに共感できないのは、白人の中でも地方に住む、低学歴で貧しく思想的には保守の人々である。そうした白人は、戦後二度の石油危機をへた産業構造の変化、経済のグローバル化、IT革命に対応できず、不安定な生活と収入の低下に苦しんできた。

 落ち目の白人たちは、黒人に対するアファーマティブ・アクション(積極的格差是正)や生活補助を「特権」や「不正」だと感じ、増大する移民を自分たちの雇用を奪う存在と見なす。くわえて、人口に占める白人の割合が減少の一途をたどり、2040年度には過半数を下回ると予測されていることから、白人が少数派となることを恐れている。

 オバマ前大統領は、医療保険制度改革や移民受け入れの維持などを断行することで、かえって保守とリベラルの分断を推し進めてしまった。トランプ大統領は、「オバマのリベラルなアメリカ」に不満や不安を持つ白人をあおることで、4年前の2016年、政治経験なしで大統領に当選する。裏を返せば、オバマ大統領なくしてトランプ大統領は生まれなかったといえよう。

拡大5日、ホワイトハウスで会見するトランプ大統領=2020年11月5日、ワシントン、ランハム裕子撮影

バイデン氏を新大統領に押し上げた非白人票と若者票

 バイデン氏はオバマ前大統領とは逆に、中道的な政策を意識し、幅広い支持を獲得しようとしてきた。だが、そうした努力と裏腹に、2020年に入って起きた、コロナ感染拡大や黒人差別に抗議するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動もまた、アメリカ社会の分断を深刻化させる方向に働いている。

 当初、これはトランプ再選に有利にはたらくという見方が強かった。しかし、11月7日、ペンシルヴェニア州で勝利をおさめたバイデン氏の獲得選挙人が273人となったことから、バイデン氏の当選は確実となる。彼を新大統領へと押し上げたのが非白人票、とりわけ若者票である。

 ニューヨーク・タイムズ紙調査によれば、白人(全投票者の65%)の57%がトランプ大統領、42%がバイデン氏に投票した。これに対して、黒人(全体の12%)の87%、ヒスパニック・ラテン系(同13%)の66%、アジア系(3%)の63%、その他のマイノリティ(6%)の58%がバイデン氏に投票している。いずれの人種も、男女間で大きな差はない。

 つまり、全投票者の35%にあたる非白人の72%が、バイデン氏に投票したわけだ。BLM運動に黒人にとどまらず多くの非白人が参加したのと同様の動きが、大統領選でも起きたことになる。

 また、30歳以上の世代では、同世代におけるトランプ大統領とバイデン氏への投票率がほぼ拮抗したのに対して、18~29歳(全投票者の17%)の35%がトランプ大統領に、62%がバイデン氏に投票している。ただし、白人では29歳以下の51%がトランプ大統領、46%がバイデン氏に投票しており、若者票がバイデン氏に流れたのは非白人特有の現象といえる。実際、29歳以下の黒人の90%、ラテン系の69%、その他マイノリティの59%がバイデン氏に入れた。

 重要なのは、2016年の米大統領選で投票しなかった人が、今回の選挙では投票に行ったことだ(全投票者の11%)。彼らのうち37%がトランプ大統領に、61%がバイデン氏に入れており、バイデン氏が前回棄権した有権者の票を掘り起こしたかたちだ。今回の米大統領選が史上最高の得票数を記録したゆえんでもある。

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筆者

山本章子

山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授

1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。

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