山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
無罪を主張した著書『真実の時』がフランスで話題。公式サイトでも反撃姿勢を示して
カルロス・ゴーンが無罪を主張した著書『真実の時』がフランスで話題を呼んでいる。ゴーンは最近、公式サイトも開設し、“逮捕日”の内幕を明かすなど反撃の姿勢を示している。
知人、友人らの陰謀で無実の罪で投獄されたが脱獄に成功し、彼らに復讐を果たしたモンテ・クリスト伯の現代版を狙っているのか。それとも、日仏の大企業トップとして君臨しながら、両国政府からも見放された「地に堕ちた英雄」で終わるのか。今後の展開が注目される。
フランスは目下、新型コロナウイルスが再び拡大、春に続いて2度目の「外出禁止令」(10月30日~12月1日)が発令され、書店も閉鎖中だ。だが、メディアや関係者の間では、『真実の時』(グラセ社、480ページ、仏人ジャーナリストフィリップ・リエとの共著)が米大統領選関係の書物とともに”ベスト・セラー“中で、注文・ネット販売で大売れだという。
同書を刊行した理由について、ゴーン自身は「私を標的にした私個人に対する過度の難癖・中傷と破壊の後に許された防衛の書」(11月5日発売の週刊誌「L’OBS」との会見)として無罪を主張。2年前の2018年11月19日に羽田空港で逮捕されて以来の、日本・フランス両国の自動車大手のトップから被告人に転落した状況について、「この日、私の人生は情け容赦なく一変した」(週刊誌「ルポワン」とのインタビュー)と述べ、小菅拘置所の狭い畳敷きの独房での日本食ばかりの130日間の生活を、「暗黒」「(日本当局との)闘争」「苦痛」「尋問」「落下した深淵」と表現して、過酷さを強調した。
100日を超える長期拘留に関しては、「フランスでは90日が限度。まったく信じられない」(ジャン=マルク・エレル元判事)と当初からその異常さが指摘されていた。この元判事は「無実を終始、主張しているゴーンを有罪にするには、自白が最も手っ取り早くて有効。自白狙いの長期拘留ではないか」「自白強要の精神的虐待、人権無視は、国際法では許されないこと」とも述べ、まるでゴーンの弁護士のようだった。テロ専門のジャン=ルイ・ブリュゲール元予審判事も、「フランスではテロリスト以外は考えられない長期拘留」と驚きを隠さなかった。