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「政局」はもういいかもしれない~政治にも必要なニューノーマル

後ろ暗く隠微な世界から脱却し、ポストコロナを牽引する明快な選択肢を有権者に示せ

曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)

 「政局」という言葉の意味、みなさんはわかりますか? 自分には謎だった。

 この言葉に初めて出会ったのは、平成元(1989)年の春。政治部に異動した初日だ。昭和最後の大政治スキャンダルとなったリクルート事件を巡り、竹下登政権が国会で社会党など野党の徹底追及を受けて立ち往生。内閣支持率は政権存続の“危険水域”とされる30%を大きく割り込んでいた。そんな最中である。

政治記者の沽券にかかわる一大事

 先輩記者たちが明らかにピリピリした顔と声で、「今は政局なのだ」「政局をよく見ておけ」などと言う。政局? こっそり広辞苑をひいたが、「政治の局面」「政界のなりゆき」とあるだけで、まったく要領を得ない。

 仕方なく「なりゆき」を見守っていたら半月後、他紙に竹下首相が「きょう退陣表明」すると先を越され、「大政局で抜かれるとは」と先輩ともどもびっくりするほど怒られた。希望もせず、準備もなしに政治部に来た自分が悪いのだが、どうやら「政局」とは「なりゆき」ではすまされない、政治記者の沽券(こけん)にかかわる一大事らしいとは知れた。

 ところが、その後観察していると、与野党が政権をかけて真正面から競う政治の一大イベントである衆院選そのものは、政局とは言わないことがわかった。選挙結果が出て、すわ首相交代かといった状況になると、政治家も政治記者たちもいきなり「政局だ」と騒ぎ出すのだ。これがまた謎であった。

後ろ暗く隠微な響き

 今回、あらためて幾つか辞書をひいてみた。小学館のデジタル大辞泉の説明が詳しく、自分の取材実感にも近いが、表現はなんとも辛口だ。
ーー「首相の進退、衆議院の解散など、重大局面につながる政権闘争」で「多く、国会などでの論戦によらず、派閥や人脈を通じた多数派工作として行われる」
とある。

 どこか後ろ暗く隠微な響きを政局という言葉に感じてきたのは、そのためだったか……。

 だが、今になっても正直、よくは分からない。例えば、今は政局か、あるいは政局でいいのか。

拡大首相官邸に入る菅義偉首相=2020年11月9日、恵原弘太郎撮影


筆者

曽我豪

曽我豪(そが・たけし) 朝日新聞編集委員(政治担当)

1962年生まれ。三重県出身。1985年、東大法卒、朝日新聞入社。熊本支局、西部本社社会部を経て89年政治部。総理番、平河ク・梶山幹事長番、野党ク・民社党担当、文部、建設・国土、労働省など担当。94年、週刊朝日。 オウム事件、阪神大震災、など。テリー伊藤氏の架空政治小説を担当(後に「永田町風雲録」として出版)。97年、政治部 金融国会で「政策新人類」を造語。2000年、月刊誌「論座」副編集長。01年 政治部 小泉政権誕生に遭遇。05年、政治部デスク。07年、編集局編集委員(政治担当)。11年、政治部長。14年、編集委員(政治担当)。15年 東大客員教授

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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