ヨーロッパ南部のスペインでは、今年の春に緊急事態宣言が出され、その約半年後の10月末に再びカナリア諸島を除く全地域に再び緊急事態宣言が発令された。感染者は100万人を超え、1日当たりの感染者は1万人を超え続ける日々が続いており、周囲のヨーロッパ諸国と同様に、過去最大の感染者数を更新している。
筆者が最初にスペインを訪れたのは、2018年の日本・スペイン外交樹立150周年記念の年。自身の活動である定住旅行(現地の家庭に長期滞在し、その暮らしや文化を伝えるもの)のプロジェクトの一環として南部、北部、西部に計3カ月滞在した。プロジェクト後も何度かスペインへ足を運んでいるが、コロナ禍となった今、世界中がそうであるように、スペイン人のライフスタイルも大きく変化している。
ウィズコロナのスペイン人のニューノーマルの暮らしとはいかなるものか。首都マドリッドの生活を中心に紹介したい。
最初の非常事態から現在まで
今年の3月下旬に発令された非常事態宣言では、約40日間ロックダウンという、買い物や病院、ペットの散歩、薬局へ出かける以外は完全に外出禁止という厳しい処置が取られた。
外出禁止中は、スペイン人の友人たちから、ぬいぐるみにリードを繋いでペットの散歩に見せかける老人が警察に注意される様子や、自身のベランダを何十往復もする夫婦を実況中継する動画が送られてきた。こんな非常事態でもユーモアを忘れない国民たちである。
その後、徐々に段階を踏みながら、子どもや年配の人の散歩や運動時間、レストランや商業施設の営業再開などが開始された。
10月末にサンチェス首相から発表された2度目の非常事態宣言は、国境封鎖や厳しい外出制限の処置はなく、マスクの着用義務、周囲2メートル範囲に人がいる場所での喫煙や23時から翌朝6時までの外出禁止などが規制された。中央政府が発令し、指揮権を各州行政に託して、状況に応じて制限設定を行った。
例えばマドリード州は、夜間の外出禁止令は24時から開始される。レストランやバーの営業時間などは、感染者の増減に合わせて絶えず変化している。規制と共に政府は「Rader Covid」(レーダー・コヴィッド)と呼ばれるアプリの取得と活用を促している。このアプリは、コロナの陽性反応が出た際、オンライン上で申告し、それまでに陽性反応者と接触していた人たちへお知らせが来るシステムである。(陽性者の名前は匿名)

非常事態宣言が出されて2日後の公園。多くの子ども連れで賑わっている(撮影:ERIKO)
スペインの最大の産業は観光業。年間8000万人を超える観光客が訪れる、文字どおり観光大国である。観光客数は世界一のフランスに次ぐ。それゆえ、今回のコロナの経済打撃は大きい。
バケーションが始まる6月末ごろから、封鎖していた国境を開放し、欧州からの受け入れを始め、EU圏からバケーションに訪れる人びとの往来が始まったが、その数は例年を大きく下回わった。地中海沿岸部などの観光地を中心に旅行サービスを展開していた、英国旅行大手のトーマス・クック社は9月23日に破産申請し、その傘下にある航空会社も大きな打撃を受けている。
スペインは現在、水際対策として、EU・シェンゲン域、豪州、カナダ、日本など11カ国を除く国の入国制限を設けている。入国に際しては、渡航前に「SPAIN TRAVEL HEALTH-SpTH」と呼ばれる保健省指定のフォームに個人情報と健康状態を記入し、提出後送られて来るQRコードを入国時に提示すること、空港での検温などが義務付けられているが、特にPCR検査の証明書や自主隔離の必要もない。