メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「多様性」時代におけるトランプ現象

「分断」の底で進行する人種関係の地殻変動

南川文里 立命館大学国際関係学部教授

トランプ大統領の就任式に到着したバイデン氏と握手を交わすトランプ氏。中央はオバマ氏=2017年1月20日、ワシントン、Alex Gakos / Shutterstock.com拡大トランプ大統領の就任式に到着したバイデン氏と握手を交わすトランプ氏。中央はオバマ氏=2017年1月20日、ワシントン、Alex Gakos / Shutterstock.com

「多様性」——21世紀アメリカのキーワード

 「多様性」は、しばしば、アメリカ合衆国を象徴する言葉として取り上げられる。アメリカは、世界各地から移民を受け入れ、異なった人種集団が共存し、さまざまな生き方を許容する社会とされる。センサス(国勢調査)局統計によれば、2019年の人種別人口構成は、白人が60.1%、ヒスパニックが18.5%、黒人が13.4%を占めている。さらに移民人口の増加などにより、白人人口は2045年には過半数を下回ると予測されている。

 また、「多様性」は、新しいアメリカ社会の望ましいあり方を象徴する規範としての意味を帯びている。2018年のピュー・リサーチセンターの世論調査によれば、回答者の57%が、多様な人種的・民族的背景を持つ人びとで構成されることが、アメリカにとって「たいへんよいこと」と回答し、これに「ある程度よいこと」と回答した人を加えれば、全体の77%にのぼる。その比率は人種別に見ても大きな変化は見られない(白人の75%、黒人の75%、ヒスパニックの80%)。トランプ政権下の共和党支持者のあいだでも、65%が「たいへん/ある程度よいこと」と考えている(注1)

 さらに、「多様性」は、教育やビジネスにおいても重要な概念となっている。多様な学生が学ぶ教室や多様な従業員で構成される職場は、革新的で卓越した能力の獲得や組織のパフォーマンスの改善に大きく貢献すると考えられている。先述したピュー・リサーチセンターの世論調査でも、75%が「企業や組織が職場における人種的・民族的多様性を促進することは重要だ」と回答している。実際、多くの企業や教育機関は、20世紀末頃から「多様性マネジメント」の考えを積極的に導入してきた。これは、人種マイノリティや女性などを含む組織やチームが、多様な経験や視点を活用して優れたパフォーマンスを発揮するよう管理する経営手法である。現代アメリカ社会にとって「多様性」は、異なった背景を持つ人びとが共存する現実を表現する言葉であると同時に、革新性や創造性の根源であり、そして、社会として実現すべき目標・規範と考えられている。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

南川文里

南川文里(みなみかわ・ふみのり) 立命館大学国際関係学部教授

1973年愛知県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。専門は、社会学・アメリカ研究。主な著書に『アメリカ多文化社会論:「多からなる一」の系譜と現在』(法律文化社, 2016年)、『「日系アメリカ人」の歴史社会学:エスニシティ、人種、ナショナリズム』(彩流社, 2007年)。著書『未完の多文化主義:アメリカにおける人種、国家、多様性』(東京大学出版会)を2021年1月に刊行予定。