米バイデン新政権と日韓関係、ダブル懸案の打開狙う
2020年11月13日
「朴智元」(パク・チウォン)といっても馴染みがない人が多いかもしれない。
大統領など目立つポストには就いたことがないものの、韓国の戦後政治史の名脇役として、民主派勢力とともに浮沈を繰り返し、2020年夏からは国家情報院=前身はKCIA(韓国中央情報部)=の院長を務める。
その朴氏が2020年11月、電撃的に来日し、菅義偉首相らと会談を重ねた。
アメリカで民主党のバイデン政権が誕生すれば、朝鮮半島情勢の大きな変化が予想されること、同時に、日韓関係にも修復を求める圧力がかかることを見越して、日本に先手を打ってきたものだ。元徴用工への賠償問題を機に冷え切った、日韓関係の打開を目指す「大統領特使」としての役割を担って来日したといってもよい。
朴氏は閣僚級だが、来日の目的は職務とは全く無関係とみられる。朴は日本の統治下に生まれた78歳。筆者も2度ほど会ったことがあるが、酒豪で、外交的な人柄に見えた。
民主化運動の旗手で同郷の全羅南道出身でもある金大中(キム・デジュン)氏とともに政治家の道を歩み、金大中氏が政権を握ると側近に重用された。
文化観光相として日本大衆文化の開放を手がけ、第1次韓流ブームのきっかけをつくった。また、日韓共催サッカーW杯の際に人の往来を増やすための交通網整備などに絡む日韓協議を通じて日本への関心も深めた。2000年に初の南北朝鮮首脳会談が実現する際には秘密裏に舞台を設定し、北朝鮮への送金疑惑がかけられたこともある。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領とは党内で鋭く対立した時期が長かった。離党・結党を繰り返し、10以上の政党を渡り歩いた末、野党の立場ながら腕力を買われて文政権入りした。
今回、菅首相と30分足らず会談した朴氏が、何を協議したかは定かではない。ただ、毎日新聞は以下のように報道している。
日韓外交筋によると朴氏は首相に対し、1998年に当時の小渕恵三首相と金大中大統領が署名した「日韓共同宣言」に続く新たな宣言を日韓両首脳が発表することを提案した(11月11日付)。
また、韓国メディアは「朴氏が菅首相に伝えた文大統領からの提案」としてこう報道した。
来年7月に開催予定の東京オリンピックの際、南北と米日首脳が会い、北朝鮮の核問題や日本人拉致問題の解決策について議論する(最大手紙・朝鮮日報)。
これらの報道が仮に事実だとしても、驚きは全くないだろう。無理難題、絵空事の極みといえる。
1998年は金大中氏が大統領に就任した年で、4年後には日韓共催W杯が控えており、官民挙げての交流意欲が高まっていた。日本側も小渕恵三首相は「20世紀中に起きたことは20世紀中に解決したい」と歴史認識をめぐる関係修復や未来志向の対話に執念を燃やしていた。いまでも日韓関係が最高潮に導いたと評価される「共同宣言」の背景には、支持する両国民の世論があった。
一方で、今は韓国の「日本ボイコット」、日本の「嫌日」が最悪の局面で、当時は影響力が乏しかったSNSが発達し、日々増幅される。仮に日韓首脳が新たな宣言を出したとしても、直ちに両国関係が好転するとは思えない。
また、日米韓に北朝鮮を加えた首脳会談という提案も、金正恩(キム・ジョンウン)・北朝鮮労働党委員長の来日実現の可能性を含め、ハードルが高すぎる。
ただ、隠れたメッセージを見つけることもできる。
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