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トルコは感染を比較的抑えつつも、強権的な言論統制が続く

[10]SNSも規制、政府発表の死者数に疑問を呈した医師が逮捕

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 トルコは2002年以来、イスラム色の強い公正発展党(AKP)を率いるエルドアン大統領(2003年~2014年は首相)が権力を握るワンマン体制となっている。AKP主導で経済発展と社会基盤整備、貧困解消を進めてきたが、一方で強権化という批判も強まった。2018年以降、トルコ・リラの下落で経済困難を抱え込み、19年の統一地方選挙では世俗派野党の攻勢を受けた。そこにコロナ禍が到来した。

 トルコは11月12日時点で確認陽性者は40万2053人、死者は1万1145人となり、中東ではイラン、イラクに次ぐ感染拡大国である。ただし、人口8430万のトルコの100万人当たりの死者は132人で、イランの456人、イスラエルの304人、イラクの282人、サウジアラビアの159人よりも少ない。感染は広がっているが、死者は比較的抑えられていることが分かる。

トルコの新型コロナウイルス感染状況(2020年11月12日時点) 出典:世界保健機関拡大トルコの新型コロナウイルス感染状況(2020年11月12日時点) 出典:世界保健機関

 政府系のサイトでは「トルコは過去15年間、医療体制を大幅に充実させ、コロナ感染との闘いで最も成功した国の一つである」と自賛した後で、「この間、各地方に基幹病院を整備し、2020年だけで11の新たな病院をつくり、最新技術を備えた1万4000ベッドを増やした」と書いている。そのうえで、「3月11日に最初の感染者が確認されて以来、感染者が4日間に接触した人間をすべて割り出してPCR検査を行い、陽性者を隔離した」とする。

 政府は陽性者が急増した4月11日、12日に土日の外出禁止令を発出し、5月半ばまで継続した。さらに、65歳以上の高齢者と20歳以下の若年層の自宅待機や外出規制をしたのも、トルコ独特の対応だった。

トルコのエルドアン大統領 Sasa Dzambic Photography/Shutterstock.com拡大トルコのエルドアン大統領 Sasa Dzambic Photography/Shutterstock.com

 しかし新規陽性者は4月中旬から下旬にかけて、1日3000人台から4000人台が確認され、毎日100人以上の死者が出るような修羅場を経験した。その直後、5月7日付のドイツの国際放送「ドイチェ・ヴェレ」(DW)は、「トルコでは急速な感染拡大にもかかわらず、恐れられていたような医療崩壊は起きなかった。政府によると、多くの病院で患者への対応が許容範囲を超えることはなく、集中治療室(ICU)が使用されたのは60%にとどまった」と書いている。


筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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