日米関係の真に深めるためには菅首相が理念や哲学を磨き上げ率直に語り合う必要がある
2020年11月15日
大接戦となった米国大統領選を民主党のジョー・バイデン氏が制し、2021年1月20日、第46代大統領に就任する。
この4年間、世界はドナルド・トランプ氏という異形の大統領に振り回された。バイデン次期大統領は、コロナ禍で大きな打撃を受けた国内を修復し、「米国第一主義」で混乱した外交を立て直すという難題に直面している。米国が大きく変容するなかで、バイデン政権に日本はどう向き合うべきかを考えてみたい。
菅義偉首相は11月12日、バイデン氏と初めて電話で会談した。日本側の説明によると、菅氏がバイデン氏に祝意を伝え、両首脳は日米同盟の重要性を確認。バイデン氏は、中国が領海侵入を繰り返している尖閣諸島について、日米安保条約の対象とする考えを表明したという。
米国としては、中国との対立をにらみながら、日本との連携を重視する姿勢を示したことになる。経済面での日米協力も進められていくだろう。
菅政権はそうした個別の懸案に取り組むが、同時にバイデン政権の誕生が示す米国の変容の意味をとらえる必要がある。
まず指摘できるのは、バイデン政権が多様性と持続可能性を重視する方向に大きく舵を切っていることである。
2016年の大統領選では、民主党のヒラリー・クリントン氏がトランプ氏に惜敗。初の女性大統領をめざしたこと自体が多様性を意味していたし、ジェンダーや人種間の格差解消といったクリントン氏の主張も多様性に重きを置くものだった。
これに対して、トランプ氏の支持基盤は白人男性が主体だった。彼らの多様性への反感が、トランプ氏を大統領に押し上げた一因と言えるだろう。当選後の4年間、トランプ大統領は融和や統合より分断や対立を増幅させた。白人警察官による黒人への暴行や銃撃が相次ぎ、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命が大切だ)運動が広がった。そうした動きが、融和と団結を掲げたバイデン氏の当選をもたらしたのである。
米国では南部諸州を中心にヒスパニック系、アジア系、黒人の人口比が上昇。その支持を受けて民主党が勢いを増している。大統領選で、これまで共和党の牙城だった南部のジョージア州やアリゾナ州でバイデン氏が勝利したのは、そうした人種構成の変化が大きく影響している(大接戦となったジョージア州では再集計の予定)。
こうした背景から、バイデン政権は当然、多様性を前面に掲げる。くわえて、バイデン氏は温室効果ガスを削減する国際枠組みであるパリ協定に復帰すると表明するなど、「持続可能性」を重視している。多様性と持続可能性は、民主党系のシンクタンクなどが唱えてきた理念であり、バイデン政権で具体的な政策づくりが進むことになる。
人権の重視もバイデン政権の大きな柱だ。国内では有色人種やLGBTなどマイノリティーの人権保護、国際社会では独裁政権下の人権抑圧への批判が前面に掲げられるだろう。その点では、国際社会で人権抑圧が批判されている北朝鮮の金正恩労働党委員長への対応は様変わりするはずだ。
トランプ大統領は金委員長との会談で核・ミサイル問題の解決をめざしたが、大きな進展はなかった。バイデン氏は「独裁者とは交渉しない」方針を掲げており、北朝鮮が核開発の放棄を明確にしない限り、交渉は進まないだろう。拉致問題を抱える日本が、金正恩委員長と「無条件で会談したい」(菅首相)としている立場とは隔たりが生じており、日米の対北朝鮮外交は再調整が迫られている。
対北朝鮮政策だけでなく、米国外交は大きく変わるだろう。バイデン氏は、トランプ大統領が「米国第一主義」で同盟国を軽視したことを批判、同盟重視を掲げている。中国への対応では当面、日本やオーストラリアなどの同盟国と連携して向き合うことになると見られる。
ただ、バイデン政権は国内でインフラの整備、医療制度の拡充、教育の公費負担増などを予定しており、財政支出の増加は避けられない。一方で、財政赤字の削減は急務だ。そのため、国防費の削減を打ち出す公算が大きい。その場合、同盟国に負担増を求めてくるだろう。日本も例外ではないが、防衛費の負担増には限界があり、米国との摩擦が強まることが予想される。
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