世界で高まるイスラム教徒への憎悪「イスラモフォビア」。危機は欧米だけではない
2020年11月17日
過激派組織「イスラム国」(IS)がパリの劇場や飲食店などを襲撃し、130人が犠牲になったパリ同時多発テロから11月13日で5年を迎えたフランス。組織的な大規模なテロ事件から単独犯での突発的な犯行へと、イスラム過激派によるテロがその形を変えゆくにつれ、治安当局による摘発も厳しさを増すなか、欧州では今、再びイスラム過激派によるテロの連鎖が起きている。
発端は、フランスの週刊紙「シャルリー・エブド」が、死者12人を出した2015年の同紙本社襲撃テロ事件の公判が始まるのに合わせ、9月2日にイスラム教預言者ムハンマドの風刺画などを再掲載したことだ。シャルリー・エブドは社説で「テロ襲撃の裁判が始まるに当たって、これらの風刺画を再掲載することは、私たちにとって不可欠だった」として、風刺画を放棄しない姿勢を強く主張した。
エマニュエル・マクロン仏大統領もこの姿勢を支持。「報道の自由があり、編集の決定に口を出す立場にない。フランスには冒涜(ぼうとく)する自由がある。風刺は憎悪ではない」と述べた。
この風刺画の掲載にイスラム教徒が反応した。9月25日にはシャルリー・エブド旧本社前の路上でパキスタン出身の男が通行人を刃物で襲い、2人に重傷を負わせた。地元メディアによると、男は「預言者ムハンマドの風刺画が再掲載されたことが耐えがたかった」との趣旨の供述をしたとされる。
さらに、10月16日にはパリ郊外で衝撃的な事件が発生した。表現の自由を考える授業の“教材”にシャルリエブドのムハンマド風刺画を使ったサミュエル・パティさん(47)が首を切られて殺害されたのだ。犯人はロシア出身のチェチェン系イスラム教徒の男(18)で、駆けつけた警察官に射殺された。
その後もテロの連鎖は止まらない。10月29日、フランス南部ニースのノートルダム教会でも男女3人が刃物で殺害された。11月2日夜には、オーストリアの首都ウィーン中心部の繁華街など6カ所で銃撃が起き、4人が殺害、20人以上が重軽傷を負った。いずれもイスラム過激派によるものとみられている。
社会での差別や不満などから過激思想に走る一部の若者たちを、いかに事前に把握して抑えるかがカギとなるなか、欧州全体のテロ対策強化を図ろうと、フランス、オーストリア、ドイツ、オランダなどの各首脳が11月10日、オンラインで会合を開催。インターネット上の過激思想をどう防ぐか、域外国境の管理強化の必要性などについて、対応が急務だとの認識を共有、拡散する過激派の抑え込みを強めている。
問題は、こうしたテロの連鎖の影響が欧州にとどまらないことだ。日本にも近い東南アジアでも、微かな震動を引き起こしている。マクロン大統領のムハンマド風刺画を擁護した発言などを発端として、イスラム教を国教とする国家などでは、「表現の自由は許されても、冒涜は許されない」などと一斉に反発が起き、フランス製品のボイコット運動なども起きているのだ。
トルコやパキスタンなど中東諸国だけではなく、国民の約6割以上をイスラム教徒が占める東南アジアのマレーシアも例外ではない。
マレーシア国内のイスラム教団体は11月1日、クアラルンプール市内で会見を開き、ディオールやロレアル、ランコム、シャネル、ルノーなど、フランス企業の名前とロゴがずらりと並んだプラカードを掲げて、フランス製品のボイコットを訴えた。
「我々は、トルコのエルドアン大統領がイスラム教のリーダーたちにフランス製品のボイコットを呼びかけたことを歓迎する」としたうえで、「ボイコットはマクロン首相が彼の宣言を撤回するか、フランス市民が彼を引きずり下ろす重圧を与えるまで続く」と強調した。
穏健なイスラム教国であるマレーシアでは、いまのところ、その宣言の影響力は高くないようだ。市民らによる目立ったデモ活動などは発生しておらず、大手百貨店内にあるフランス製品を扱うコスメ店や服飾店には普段通りに買い物客が訪れ、買い物を楽しんでいた。
フランス製のベビー服を扱うブティックショップでレジ番をしていた、ヒジャブを被ったイスラム教徒の若い女性に、ボイコットの影響があるかと聞くと、「フランス製品のボイコットが呼びかけられていることすら知らなかったわ。お客さんは普段に比べて圧倒的に少ないけれど、これはボイコットではなくコロナの影響ね」と淡々と口にした。
だが、都市部を中心とした比較的リベラルなイスラム教徒らの反応と、敬虔なイスラム教徒の間では、その感情に大きな温度差がある。
イスラムの宗教学校に息子を通わせる30代の父親は
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