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「腐敗輸出」規制で後手に回る日本のお粗末

多国籍企業の振る舞いを規制する腐敗防止策強化は世界の流れ

塩原俊彦 高知大学准教授

 長く「腐敗」問題を研究してきた。それは、拙稿「PEP規制の重要性:無知ほど怖いものはない」「アベノマスクは「腐敗のマスク」か」といった記事に反映されている。ここでは、2020年10月にトランスペアレンシー・インターナショナルという非政府組織(NGO)が公表したばかりの「腐敗輸出2020」という報告書を紹介し、日本の後手後手に回るばかりのお粗末な状況について論じたい。

「超国家企業」の活動を抑止して腐敗を国際的に防止する

 拙著『官僚の世界史』(社会評論社、2016年)は本来、『腐敗の世界史』として上梓されるべきものであった。出版社の意向に沿うかたちで変更されてしまったのだが、それは“corruption”を日本語に訳すとき、「腐敗」と翻訳すると、わかりにくくなるためであった。「汚職」とすると、政治家、役人といった者だけに範囲が限定されてしまうように思える。

 そんな定義が難しい“corruption”ゆえに、国際的に規制する条約を締結するのは簡単なことではなかった。それでも、米国が世界中でいち早く1977年に海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act, FCPA)を制定したことで、米国流の腐敗への考え方が世界中に広がることにつながる。同法では、米企業が外国公務員、政党、候補者に賄賂を支払うことを禁止している。

 なぜこんな法律ができたかというと、その背後には、国家を超えて活動するようになった「超国家企業」が傍若無人に振る舞うことで、米国を代表とする先進国の国家主権を侵害しかねないという事態があった。たとえば、米国系企業の国際電信電話会社(ITT)は、1970年チリ大統領選挙において、左派候補で、重要産業の国営化の推進をめざしたサルバドール・アジェンデの落選工作を行ったとされている。アジェンデ大統領就任後、ITT系企業は国営化されたが、1973年9月、アジェンデは軍事クーデターで自殺に追い込まれた。これ自体は、直接、米国の国家主権と関係はない。しかし、米ソ冷戦下で、多国籍企業が多くの国々で巻き起こした現地政府との癒着や不正がそうした国の左傾化を促し、それが米国の脅威となっているとの認識が広まる。

ロッキード事件で「田中角栄前首相逮捕」を知らせる号外に飛びつく人たち=1976年7月27日、東京・有楽町

 1976年、米上院の多国籍企業小委員会で発覚したロッキード・スキャンダルも、同社の日本、オランダ、ベルギー、イタリアなどへの航空機売り込みに絡む事件であり、まさに超国家企業が各国の政府を巻き込んで各国の政治に干渉していた結果であった。つまり、超国家企業の身勝手な振る舞いが米ソ対立の挟間で米国政府の利害に反することになりかねない状況をもたらしていたのだ。だからこそ、多国籍企業の振る舞いを規制する手段として腐敗防止策がとられるようになったのである。

OECD、国連でも腐敗防止の取り決め

 だがこれでは、国際商取引において米国企業だけが不利になるため、企業がビジネスを獲得するために賄賂や便宜供与などの形での外国公務員への支払いを禁止する条約が国際的に必要になる。それが1997年11月に署名され、1999年2月に発効した。「OECD(経済協力開発機構)・国際ビジネス取引における外国公務員に対する賄賂闘争取り決め(以下、OECD贈収賄防止条約)」である。米国は、1997年のOECD反賄賂取り決めを受けて、その内容を反映させるため、早速、1998年に前記のFSPAを改正した。外国の企業や個人が米国にいる間に不正支払いを行う場合も、同法が適用されることになったのだ。

 だが、米国以外の超国家企業は現地政府への贈賄により、利益を確保する工作を継続した。有名なのは、フランスの石油会社Elf(2000年からTotalの傘下)がカメルーン、コンゴ、ガボンなどで行った贈賄工作で

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