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赤木俊夫さんはなぜ死を選んだのか? 加害と被害のはざまに生きた官僚

芝居『拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿』が問いかける「公と私」

石川智也 朝日新聞記者

加害者であり、被害者であり

 とはいえ、しがらみだらけの現実世界で、真に「パブリック」な存在であり続けるのには、相当の覚悟が要る。

 赤木さんの訃報(ふほう)を耳にして、私が即座に思い浮かべたのは、環境庁企画調整局長を務めた山内豊徳さんのことだった。福祉畑を30年も歩んだ後に水俣病訴訟で和解を拒否する国側の責任者として患者の矢面に立っていた山内さんは、内なる良心と職責との板挟みとなり、やはりみずから命を絶った。1990年のことだ。

 是枝裕和監督が、最初期のドキュメンタリー作品『しかし…』や著作『官僚はなぜ死を選んだのか』でこだわりをもって追い続けた山内さんは、赤木さん同様、文学や芸術に造詣が深く、しなやかで柔らかな魂をもつ誠実な人物像が伝わる。

 純粋な一個の人間であろうとすればするほど、その人生を険しいものにしてしまうのが官僚という職業であるなら、ふたりはいずれも、官僚であることに徹しきれなかった人物だったということになるのかもしれない。

 理想主義が現実主義に圧倒されていく現場に立ち会い、手ずから関与したという責任において、山内さんも赤木さんも加害者であったことは間違いない。と同時に、ふたりは冷え切った鉄のように冷徹な組織という車輪の下敷きになった被害者でもあった。その二重性に引き裂かれながら生き、最終的にはみずからの加害者性の重みに耐えかね、自裁という結論を出したのだろう。

 しかし、こうした二重性を背負っているのは、私たちも同様ではないか。赤木さんらとの違いは、日々裏切っているものやみずからの加害者性から目を背け、気付かぬふりをしているかどうかという点に過ぎないのかもしれない。

拡大『拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿』より=姫田蘭撮影

組織に生きることの悲しみ、痛み、怒り

 今回の舞台『拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿』を作るにあたり、坂手には「赤木さんという自ら命を絶った人をモデルにすることに、大きな葛藤があった」という。

 「正直なところ、いまでも手が震えるほどの迷いがあります。でも、赤木さんが若い部下を巻き込むまいと汚れ仕事を引き受けた一方で、出世していった上司たちがいる理不尽と、赤木さんが陥った状況は、我々も日常的に抱えている普遍的な問題でもあるということを、僕にしかできない方法で残しておくことはやはり必要なんだと、自分に言い聞かせました」

 この作品が描いているのは、日本で組織に生きることの悲しみであり、痛みであり、怒りだ。が、決して安易に観客の感情移入を誘うものではなく、逆に、私たちが生きる二重性のありようを突きつける。

 佐川宣寿・財務省理財局長(当時)が改ざんと引き換えに手にしたものに比べ、赤木さんがみずからの死と引き換えに問いかけているものは、なんと重いことだろう。

【公演情報】
●東京都 「座・高円寺1」
~11月22日(日)
●愛知県 「愛知県芸術劇場」
11月24日(火)・25日(水)
●兵庫県 「AI・HALL」
11月27日(金)~29日(日)
●岡山県 「岡山市立市民文化ホール」
12月1日(火)
【予約・問い合わせ】
燐光群/(有)グッドフェローズ
詳細は「ここ」から

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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