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米大統領選で顕在化した「切り取られた」民主主義。修復は可能なのか?

機能不全に陥った民主主義・選挙。市民の権利を担保するため司法の機能強化も有効か

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

大統領選で見られたのっぴきならない状態

 こうした「民主主義が切り取られた」現実を象徴的に示したのが、今回のアメリカ大統領選の前後に生じたのっぴきならない状態だ。

 一つは、選挙で自らが支持する候補者が負ければ、暴力行為も辞さないという勢力が現れたことだ。街中の店は、起こりうる事態を明白かつ現実の危険ととらえ、ガラスドアや窓を段ボールで覆った。まさに近代以前、ホッブズの「万人の万人に対する闘争」を彷彿とさせる、異様かつ異常な状況であった。

 もう一つは、トランプ陣営が法律家を集め、選挙で投じられた票のカウントを止めさせる訴訟を提起をし、集計が終わった後も票の有効性を争う姿勢を見せるなど、司法を経由して投票及び投票結果の正当性を徹底的に攻撃することである。

 いずれも、「決定したことが気に入らなければ受け入れない」ことの、事実上&法律上の表明である。民主主義を受け入れないという表明と同義だ。

蔑ろにされた民主主義の「プロセス」

 民主主義を最も無機質に捉えると、「決定の装置」ということになる。われわれ人類が“間違いうること”を前提に、一人で決める「独裁主義」ではなく、みんなで決めて、だからこそ決まったことには恨みっこなし、という制度であったはずだ。

 すなわち、「51対49」で決したときには、敗者となった「49」の人たちもその決定に従う。そのために大事なのが「プロセス」だ。それは、民主的過程における対話と熟議を共有するというプロセスである。

 こうしたプロセスが蔑(ないがし)ろにされるリスクが高まっているのである。

拡大今年9月、ペンシルベニア州の選挙集会で演説するトランプ大統領=ランハム裕子撮影

民主的決定が公共性を獲得できなくなる

 トランプが大統領選で敗北したことにより、ヒーロー漫画のように、負けた“悪者”が宇宙の彼方に消えてなくなるわけではない。トランプも、トランプ支持者も、そしてトランプに投票した人々も、今後もアメリカに存在し続ける。

 しかも、トランプの今回の得票数(2020年11月10日時点)は7090万3094票で、前回より792万3458票も増えている。トランプ的ルサンチマンはこの4年間で増大しているのである。

 民主主義のキモは「参加」と「責任」にある。全員が参加したことの責任として、勝敗にかかわらず決定には「自発的服従」することよってはじめて、その決定が「公共性=公」を獲得する。アメリカで起きていることは、この公理を壊す。「勝者」を認めないと公然と宣言し、「自発的服従」を拒否する勢力が、半数近く存在し続けることになるからだ。

 すなわち、トランプという人物と“一心同体”化した支持勢力が、民主的決定をめぐる市民の責任である「自発的服従」を拒否することによって、民主的決定が公共性を調達できなくなる。相対立する勢力が、決定のプロセスにおける一切の対話を拒否する世界では、“民主主義”は自分たちを正当化するための装置、対立構造を追認する、あるいはお墨付きを与える装置にしかならない。

 本来、民主主義とは社会のベースにある360度のパイであったはずが、ピザのカットのように切り取られ、それぞれのパイを正当化するためだけの装置となったのだ。勝ったものにとっても、負けたものにとっても、民主主義はもはや360度のパイではなくなってしまった。

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

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