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米大統領選で顕在化した「切り取られた」民主主義。修復は可能なのか?

機能不全に陥った民主主義・選挙。市民の権利を担保するため司法の機能強化も有効か

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

「人の支配」と「法の支配」

 私は「人の支配」に与しないが、「人」によって一点突破・全面展開するような場合があることは否定しない。今回のアメリカ大統領選におけるカマラ・ハリス副大統領の誕生は、その誕生自体をもってシンボリックに多様性と寛容及び統合を体現し、歴史(時間)と国家的枠組み(場所)を飛び越えて、淀んで凝固してしまったアメリカ内部の様々な自由や多様性の“澱”みたいなものを刺激する起死回生になるかもしれないし、それを望む。

 カマラという「人」に期待するからこそ、「バイデン&カマラ・ハリス」のコンビには、根幹から揺らいでいる「法の支配」をどれだけ再構築し、具体的に提示していくのかに期待し、注目している。

拡大米デラウェア州で11月7日、大統領選での勝利を祝うバイデン次期大統領(中央右)とハリス次期副大統領(中央左)=ロイター

 善き統治者による善き統治を期待することと、どんなに善き統治者であっても、その統治者を法で適切に統制しようとし続けることとは両立すると私は考えている。裏を返せば、法の支配を重視することと、善き統治者が現れて、善き統治をしてくれることを望むこととは、なんら矛盾しない。

 要は、人を見て「素敵だな」と思うその感覚を大事にしたいのである。結局のところ、そのような直感やわれわれが感じる雑多な“情念”のようなものの集積もまた、民主主義なのだから。

「法」というルールに賭ける

 自由、法の支配、民主主義といった価値を尊重してきたアメリカの価値による「統合」のエッセンスが、リベラルエリートの「冷たさ」と相まって、どこまでいっても“口だけ”の建前としてしか機能しなくなったのが、現代アメリカ社会のコンセンサスなのは事実だ。

 アメリカ統合のアイデンティティが風化し、自分たちをケアしてくれない「キレイゴト」よりも、怒りや疎外感を投影できて癒してくれるポピュリストを選択したくなる感覚は、理解できる。こうした感覚をすべて排斥しては、状況の打開はできない。

 では、どうするのか? 民主主義を立て直すことは果たして可能なのか?

 私は、「法」という一般的なルールに再度賭けてみたいと思う。

 法を否定、あるいは融通無碍に利用したトランプ自身が今回、自身の正当性の駆け込み寺として司法=裁判所にすがったことは、笑えないアイロニーでもあるが、同時に瓦解しつつある民主主義への一抹の希望も見いだせる。これは、我が国にも通底する問題意識である。

 すなわち、民主主義や選挙が機能不全を起こしているのであれば、市民の権利や公的対話を担保するために、今ある部分的民主主義の相対化(弱める)戦略として、司法の機能を強化し、法の役割をよりきめ細やか、かつ広範に及ぼすということである。

ネット中傷規制強化の評価

 そのためには、法の権力者による解釈の幅をできるだけ少なくするよう「規律密度」を上げ、原告適格や訴訟の利用の簡便性を含めた人々の法へのアクセスをより広範かつ容易にし、裁判所の判断のオプションを増やし、強制力も強める必要がある。

 その一例として、現在、総務省及び有識者会議が検討しているような、ネット上の誹謗中傷表現に対して、被害者が訴訟をしなくても、裁判所が事業者側に投稿者の情報を開示させる手続きなどは、この観点からは歓迎すべき制度である。

 ネット空間での言論は、いまや民主主義に不可避であるにもかかわらず、過剰に一方向を向いた言説が言論空間を占拠したり歪めたりするばかりか、個々人の尊厳までをも根源的に傷つける手段になっている。法という一般的なルールによって、権利回復や歪められた言論空間の是正する手段を創設することは、切り取られた民主主義を法で手当てする一つの企てと評価できよう。

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

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