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「電子ごみ」(E-waste)に気をつけて

日本企業の問題意識の低さに懸念

塩原俊彦 高知大学准教授

 2020年10月13日、アップルはスマートフォン「iPhone」の新機種を4種類発売すると発表した。同時に、このiPhone12には、もはや有線のイヤフォンや電源アダプターが含まれていないことも明らかにした。充電用の電源アダプターや有線イヤフォン「EarPods」が梱包されなくなった代わりに、利用者はこれらを別途購入しなければならなくなったことになる。

 ただ、アップルの環境・社会・政策を担当するリサ・ジャクソンは、廃棄物を削減するために箱からこれらの製品を削除すると、環境のために良いと説明している(「アップルのiPhone12はEarPodsとアダプターをオプション提供する」)。

auアダプターのひどさ

 この事実を知って、筆者はある個人的な体験を思い浮かべた。自分の使っているauのスマートフォン向けアダプターが2個つづけていずれも2年ほどで故障したという経験だ。台湾企業が製造し、KDDIと沖縄セルラー電話が販売元となっている「純正品」だが、充電不能に陥ってしまったのだ。こんな短期間で故障するアダプターを過去に利用した経験はない。「不良品」を「純正」なる製品として高く売りつけられていたと理解している。3個目のアダプターは家電量販店で買った。純正品との価格差は約1000円になる。

 アップルの場合、すでに世界には20億個以上のアップル製の電源アダプターがあることから、新しいアダプターをつけずに販売し、環境負荷を軽減したという。ジャクソンの説明では、「iPhone12向けに実現した変更のおかげで、年200万トン(2Mt)以上の二酸化炭素が削減され、それは毎年路上から45万台のクルマがなくなるのと同じ計算になる」。

「電子ごみ」の現状

 ここで、アダプター、バッテリー、電化製品、電話、モニター、ケーブルなど電気電子機器(EEE)の廃棄物である「電子ごみ」(E-waste)について考えてみよう。

 国際電気通信連合(ITU)、国連大学と国際連合訓練調査研究所による「持続可能サイクルプログラム」、および国際固形廃棄物協会の共同取り組みであるGlobal E-waste Monitor 2020によると、図に示したように、2019年には、世界で53.6Mtの驚くべき電子ごみが発生し、一人当たり平均7.3kgが発生した。アジアの電子ごみは24.9Mt、アメリカが13.1Mt、ヨーロッパが12Mtで、アフリカは2.9Mt、オセアニアは0.7Mtだった。一人当たりの電子ごみでみると、ヨーロッパが16.2kgともっとも多く、ついでオセアニアの16.1kg、アメリカの13.3kg、アジアの5.6kg、アフリカの2.5kgとなっている。世界の電子ごみは2014年以降、9.2Mt増加し、2030年までに74.7Mtまで膨らむと予想されている。ほぼ16年間で倍増する計算になる。

Forti V., Baldé C.P., Kuehr R., Bel G. (2020) The Global E-waste Monitor 2020より

アップルの努力への評価

 興味深いのは、前述した持続可能サイクルプログラムの責任者、ルーディガー・キュールによるアップルの今回の措置に対する評価である。「iPhoneは充電器なしで出荷。電子ごみを抑制できるか?」という記事にある彼の評価はつぎのとおりである。

 「タブレット端末、スマートフォンなどに由来する電源アダプターの割合は電子ごみ全体の増加の0.1%にすぎない。これはおよそ0.054Mtの電子ごみに相当する。アップルの分だけを考慮すると、おそらく半分かそれ以下だ。最大でも、0.025Mt、つまり電子ごみの年間増加分の0.05%といったところだろう」

 加えて、電源アダプターを持っていなければ、利用者はアダプターを購入しようとするだろう。その結果、スマートフォンとは別に梱包・出荷しなければならなくなり、それが環境に負荷をかけることになる。

 つまり、アップルの今回の措置はアップルが主張するほど環境にやさしいわけではない

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