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石破茂はこれからどう生きるのか~自民党総裁選「惨敗総括」(中)

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 9月の自民党総裁選前、国民人気ではダントツの首相候補だった石破茂は、実際の総裁選で菅義偉現首相に圧倒的な差をつけられて最下位に甘んじた。この結果、石破は自らの派閥「水月会」の会長を辞任、同会は現在、混迷が続いている。

 『石破茂はどこで間違えたのか~自民党総裁選「惨敗総括」(上)』で紹介したように、石破はインタビューで自民党外の勢力と組む考えがないことを繰り返し、あくまで党内で自身の政治構想の実現に努力することを強調した。また、政党に変革をもたらすには、結局、選挙結果の影響を待たなければならないとも指摘した。

 安倍政権を引き継いだ菅政権は内部に様々な不祥事や疑惑を引きずっている。この党内体制の下では石破の出番はやって来ないだろう。その時、石破はどう生きるつもりなのか。ストレートに問い続けてみた。

ポッドキャストの収録をする石破茂氏=2020年10月6日、東京都中央区

――次の選挙結果というものは今、誰にも予測がつきませんが、ここでお聞きしたいのは石破さんの過去、そして現在、未来のことです。簡単に言えば、石破さんは今後どう生きるのか、ということです。

 次の総選挙がいつになるのか、わかりません。来年1月という話もあれば、やるかどうかわからない東京オリンピックの後という話もある。選挙結果ももちろんまったくわかりません。とすれば、石破さんは今後どういう政治的な行動を取るのか。そこのところをお聞きしたいと思うんですね。

 まず、直近の総裁選の結果を踏まえて、例えば水月会という組織はどうなるのでしょうか。石破さんの後の水月会の後任会長が決まらないですよね。これはなぜなんでしょうか。

石破 水月会の中でもいろいろな意見がありますが、みんな石破と一緒にやろうと言ってくれているんですね。

 それで、今後のかたちとして、私の辞意表明の後も「石破さんが会長でなければ意味がない」と言ってくれる人もいる。一方でベテランになると、それぞれのめざす政治のために会長を代わるべきだと考える人もいる。それで、まだ決まらないんじゃないかと思います。

なぜ派閥会長を辞めたのか?

 水月会は、安倍晋三の自民党総裁無投票再選が決まった直後の2015年9月に、石破が自身の派閥として組織。水月会HPに掲載された石破自身の言葉によると「無私、無欲、己を誇らず、相手を貶めず、ひたすら研鑽に励み、世の中のために尽くす集団であるべし」との思いを込めた政策集団。現在、衆院議員17人、参院議員2人の計19人。石破が会長辞任を表明後、後継会長として鴨下一郎元環境相を指名したが、鴨下は固辞し続けている。会員の一部は竹下派への集団移籍を企図したが、若手を中心に派閥の存続を求める声が強い。

――そうですか。私が推測したのはこういうことなんですね。つまり、水月会は何と言っても石破さんを中心に作られた会ですが、辞任すると言明された石破さんが個人として今後どういう政治人生を送るつもりなのか、あるいは水月会という組織をどういうふうに持っていくつもりなのか、そういうことが見えない。だから、後任会長を引き受けることは怖くてできない、ということではないですか。

石破 みんなそれぞれ選挙区があり支持者があって国会議員なわけです。そしてそれぞれやりたいことがある。そのことに私が会長であることで妨げになるのであれば、というふうな思いも私にはあるわけです。

 私は、石破派だからポストが得られないとは思っていないですよ。現に今も厚労大臣に田村(憲久)さんがなり、副大臣も二人出て政務官も出て、政調会長代理も出て、他の派閥とポスト的に遜色があるわけではありません。

 けれども、いわゆる主流派にはいないわけです。だから、主流と言われる中で政治活動をしてみたいと思っている人にとっては、石破を会長としていることはマイナスかもしれない。

 だから、私も含めて、それぞれの考え方を一回整理してみようということだと思います。当選期数にかかわらず、国会議員にとって大切なのはやはり選挙区、地元ですから。

――水月会に集まっている議員は、石破さんをはじめ政策本位で政治を考えていこうという人たちですね。そういうイメージが強いです。

 つまり、普通に通用する言葉と議論によって合意を得て政治を動かしていこうという考えですね。少なくとも、そこのところは志として持っている人たちなんじゃないかと思います。

石破 それは、ありがたいことにそうなんだと思います。

自民党の石破派の会合で披露された「書」=2018年3月1日、東京・永田町

――ということは、もし水月会がなくなればそういう生き方とは違う生き方を迫られる可能性が高いですよね。つまり、他の派閥に移り、志とは違う政治姿勢を求められることになります。そういうことを防ぐためには、水月会の中心である石破さんが今後も変わらずに志を貫いていくんだという考えを強く打ち出すべきなのではないですか。

石破 まずは、「私は水月会を辞めるわけではない。この集団は自民党内で維持しなければいけない。それで、1年後には、いやもう10か月以内にある総選挙において、この水月会で5年間一緒にやってきた同志が一人も欠けることがないように、私で役に立つことは何でもします」ということを申し上げました。

 私として、水月会がきちんと残るということ、全員が選挙を乗り切ること、この二つが大切で、あとは水月会に集ってくれて過去2回一緒にこの厳しい総裁選挙を戦ってくれた人たちが、それぞれ今おっしゃったように、他の派閥に行ったってどうなるかというふうに考えるか、それでもそれだけの見識と能力を持った人たちは他の派閥に行っても重用され、さらに頭角を現していくかもしれないと判断するか、それはそれぞれの判断に委ねたいと思うのです。

 私はカネをまいたりポストをつけたりすることが集団を維持するのに必要なことだとは思っていない。政治家の原点は常に選挙区だと思っているからです。

 投票日にわざわざ投票所に行って名前を書いてくれる人たちが、政治家としての行動を支持してくれるかどうか。自分が有権者たちに対して忠実であり誠実でありたいという原点、それをもう一回考えてみるべきじゃないだろうか。

 それぞれの選挙区でもいろんなことを言う方がおられるでしょう。「石破派にいると偉くなれないから、とっとと別の派閥に行け」とか言われる方もおられるかもしれない。それは、それぞれの議員が選挙区の人たちとどう向き合うかでしょう。

 私も、いろんな決断をする時に選挙区にできるだけ正面から向き合ってきました。新進党を離れた時も自民党を離れた時も、「無所属の石破茂として判断してくれ」と申し上げたし、そういうことを選挙のたびに求めてきました。

なぜ自民党を離れないのか?

――私は石破さんを見ていると、加藤紘一さんをしばしば思い浮かべるんですね。私は駆け出しの新聞記者のころ山形支局で県政を担当していて、当時防衛庁長官で自民党山形県連の会長だった加藤さんと結構やり取りがあったんですね。正直言って加藤さんはお坊ちゃんだなと思ったこともありましたが、少なくとも志はあったかに見えました。

石破 もちろん、おありでしたよ。

――しかし、志はあったんですが、「加藤の乱」で敗れました。敗れた後、銀座のバーなどで時々遭遇しましたが、やはり元気がなかったですね。

 加藤紘一は、同期の山崎拓や小泉純一郎とともにYKKと呼ばれ、防衛庁長官や内閣官房長官、自民党幹事長、宏池会会長などを歴任して「総理に一番近い男」と俗称され続けた。しかし、2000年11月、森喜朗内閣に対して野党の不信任決議案提出が予測されると、加藤派と山崎派による賛成か欠席によって決議案を可決させる倒閣運動を起こした。「加藤の乱」と呼ばれるこの運動は当時の自民党執行部によって逆に完全に切り崩され、最後は加藤と山崎二人しか残らなかった。当時の加藤派には谷垣禎一や岸田文雄、菅義偉らがおり、最後の加藤、山崎両派合同総会がテレビ中継される中、加藤は派閥議員に囲まれて泣きながら立ち尽くしていた。

内閣不信任案に賛成票を投じると発言した加藤元幹事長は、合同総会に出席した議員から押しとどめられ、涙を浮かべた=2000年11月20日、東京都港区

 加藤さんと石破さんを並べて考えてみると、二つの相違点に気が付きます。小さいことから言うと、まず加藤さんは泣いてしまったが、石破さんは泣かなかったということ。それから次に大きいことを言うと、加藤さんには「自民党はこのままでいいのか。密室政治を続けていていいのか」という志はあったけれども、不信任決議案を可決させた後の戦略がなかった。一方で石破さんには総裁選で戦うという戦略があったということです。

石破 そうですか。

――はい。しかし、その戦略も「菅・二階対安倍・麻生」という総裁選前の暗闘の構図を考え併せれば、あまり意味のある戦略ではなかったのではないですか。

 つまり、ここで本質的な問題に戻りますが、石破さんが勝つには、まさに「自民党を変える」という志を前面に出して、党外のウエーブも想定した大きい戦略を考えなければならないのではないか、ということです。

 石破さんのエネルギーはこれからも枯れることはないと思いますが、この点今後はどう考えますか。今、自民党は締め付けの厳しい菅総裁・菅首相の下にありますが、このままではいつまでも同じ状態でいってしまうという可能性が大きいと私は思います。

石破 そうですか。

――どう考えますか。

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