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日本のコロナ対策はユル過ぎ?「外出禁止」段階解除中のフランスからの懸念

国民待望のレストラン再開は年明け。慎重に外出禁止を解除するマクロン大統領

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

Samot/shutterstock.com

 日本でも新型コロナウイルスが再び猛烈な勢いで広がりつつある。小池百合子・東京都知事は「不要不急の外出自粛」を都民に要請したが、菅義偉首相は「非常に高い緊張感を持って」というフレーズを繰り返しているだけの印象を受ける。首相肝入りの「GoToキャンペーン」に関しても、「見直し」を宣言したが、中止には否定的だ。一国の首相として、大切な国民の命を守る覚悟はあるのだろうか。

 新型コロナの感染者は世界で約6000万人、死者約141万人(11月26日現在、仏保健連帯相)だ。フランスの感染者は約217万人。死者は約5万人で、米国、インド、ブラジルに次いで4番目だ(同)。

 これに対し、日本の感染者は約11万5000人、死者は2035人(11月25日、厚労省)と少なく、日本とフランスを一概に比較するのは無意味かもしれない。とはいえ、日本でも最近は感染者が1日2000人を超える日も。ウイルスの蔓延(まんえん)が懸念される冬場を迎えることを考えると、日本の新型コロナ対策は、フランスに比較して、あまりにもユル過ぎるようにみえる。

「外出禁止」の解除は三段階に分けて実施

三段階で「外出禁止」の解除すると説明するマクロン大統領=2020年11月24日、民営テレビTF1の画面から(筆者撮影)
 マクロン大統領は11月24日のラジオ・テレビ演説で、10月末に「外出禁止」(10月30日~12月1日)発令した当時の「1日あたり感染者が平均6万人増加」という最悪の状態から、今は「平均2万人増加」に減ったと指摘、「外出禁止」の効果を強調する一方、依然として減少人数が不十分だとの見方を示し、外出禁止の解除は「三段階」に分けて慎重に実施すると表明した。新型コロナ対策に関する大統領のラジオ・テレビ演説は6回目だ。

11月28日の開店を前にクリスマスのネオンも仕上がった店=2020年11月27日シャンゼリゼ大通り(筆者撮影)
 解除の第一段階階は11月28日からの「全土での全店開店(「外出禁止」中は食料品店と薬局、IT関係店のみ)」だ。ただし、営業時価は午後9時までで、マスク必着はもとより、通常は1メートルの社会的距離も、店内では8メートルだ。小さな店が多い美容院や書店などは「通常の半数以下の客しか入店できない」と、嬉しさも中ぐらいだ。

 外出は「1時間、1キロ」が緩和されて、「3時間、20キロ」になったが、外出時の姓名、生年月日、現住所、外出目的、外出時間などを明記した「証明書」の携帯義務は続行だ。違反すると、「外出禁止」中と同様、罰金135ユーロ(1ユーロ=約120円)だ。再犯者は倍額になり、それ以上や悪質な場合は禁固6カ月プラス3000ユーロ以上の罰金も継続される。

クリスマス・イブと大晦日は9時以降の外出OK

 12月15日からの第二段階は「映画館、劇場、美術館などの開館」。もちろん、マスク必着で社会的距離も厳守。外出時の「許可書」の携帯も続行だ。しかも、この時点で1日の感染者が5000人以下、集中治療室の入院患者が2500~3000人という条件付きで、確定ではない。午後9時から午前7時までの「夜間外出禁止」も継続する。

人影が消えた夜のシャンゼリゼ大通り=2020年11月18日(筆者撮影)
 ただし、クリスマスが最大の祭事(カトリック教徒が60%余)であることにくわえ、大晦日(おおみそか)のどんちゃん騒ぎが“伝統”であるフランス国民にとって、この条件はあまりに過酷すぎるとあって、12月24日のクリスマス・イブと12月31日は例外的に午後9時以降の外出が許可された。

 イブには、家族でごちそうを食べ、プレゼントを交換した後、ふだんの日曜に教会に行かない者も、教会の夜間ミサに行く。また、大晦日には、シャンゼリゼ大通りが歩行者天国になり、観光客も含めて数十万の人出で賑わう。エッフェル塔を背景に夜空を焦がす花火を堪能するが、花火に関してはやるかどうかはまだ未定だ。いずれにせよ、観光客はいないので、例年より寂しくなりそうだ。

レストラン、スポーツクラブの再開は年明け

閉鎖中のレストラン=2020年11月26日,パリ8区(筆者撮影)
 第三段階は年明けの1月20日からで、いよいよ待望の「レストラン、ディスコ、スポーツクラブの再開」だ。秋以降の第2波襲来は、1回目の「外出禁止」(3月18日から5月11日)の解除と夏季バカンスが重なり、フランス人が自由奔放、勝手気ままに振舞った結果と指摘されており、第3波襲来を防ぐには、年末年始のパーティーや食事会、スキーなどを回避するのが最善策との判断からだ。

 実際、感染率が高いのは、マスクを外す食事時や、社会的距離の確保が困難な環境ということが判明している。マスクを着けていても、大声で話したり、歌ったりすると、目に見えない飛沫にのってコロナウイルスが飛散することも確認されている。

都道府県任せが漂う日本政府のコロナ対応

 一方、日本はどうか。小池百合子都知事は11月25日に「不要不急の外出自粛」と「酒類を提供する飲食店とカラオケ店に対する営業時間の短縮」を要請。期間は11月28日から12月17日までの20日間、店舗には午後10時の閉店を求めるが、要請であって強制ではない。人出が予想されるクリスマスの前後や年末年始は経済優先で避けており、「頭隠して尻尾隠さず」の感は否めない。

 菅義偉首相は「新規感染者が過去最多となるなど、最大限の警戒状況が続いている」ことは認めた。また、「感染拡大が一定レベルに達した地域ではその状況を考慮し、都道府県知事と連帯し、より強い措置を講じる」「都道府県が飲食店に対し、営業短縮を要請する際、地方創生臨時交付券を500億円追加配分して支援する」とも表明したが、都道府県任せの感じが漂い、政府として国全体への目配りする姿勢も覚悟も希薄だ。

 首相肝入りと言われる「GoToキャンペーン」に関しても、「感染拡大防止を最優先」としながらも、「経済をまわしていかなければいけない」とも言い、キャンペーンの中止には否定的だ。首相の頭の中には、「命あってのものだね」という永遠の真理は存在しないのだろうか。

具体的な経済対策を表明したマクロン大統領だが……

 もちろん経済は大事だ。コロナ禍のもと、フランスの経済情勢は「第2次世界大戦直後と同様の景気後退期」と言われ、最悪だ。失業者は一時的解雇も含めて約80万人。2020年の第2四半期の国内総生産はマイナス13.8%。「元通りになるのは、早くて2022年」(メナール経済相)とされる。

パリ名物のレストランやカフェのテラスも封鎖で枯葉の溜まり場に=2020年11月25日、シャンゼリゼ大通り(筆者撮影)
 マクロン大統領は今回は極めて具体的な経済対策も表明した。アルバイトの学生や若者の失業が増えている状況を踏まえ、11月28日から積極的連帯所得手当(RSA)と個別住宅補助(APL)の受給者に特別支援金を支給(最低150ユーロ、子ども1人につき100ユーロ)することも公約し、「400万所帯と1300万人の若年者が恩恵を受ける」と指摘した。

 また、レストランなどの閉店による減収を補填するために、2019年度の年収の20%の支援や小企業に1万ユーロまでの補償金も保証、「一社も倒産させない」と断言した。もっとも、レストラン経営者の中には、「閉店中の家賃や光熱費、従業員の失業手当などで多額のお金が必要で、それぐらいだと焼石に水。もう店を閉じるほかない」と不満を隠さない者もいる。

 大統領に続いて11月26日に会見したカステックス首相は、コロナ禍で不安定な立場がさらに悪化した臨時雇用者に対し、11月から来年2月までの4カ月間、月額900ユーロの支給を公約するなど、国民の不満、不平を封じるのに必死だ。こうした支援金をどこから捻出するのか。「増税」や「EU頼み」の声も聞かれる。

 EUの対コロナ予算案は7500億ユーロ(約92兆円)だ。欧州委員会が債権を発行して、金融市場で全額を調達する仕組みなので、加盟国の一員としてフランスも恩恵を受けるはずだが、配分などを巡ってポーランドとハンガリーが異議を唱えており(11月20日現在)、フランスやドイツなどが説得中だ。

コロナ感染検査にも熱心なフランス

 フランスは「テスト、警告、保護」をスローガンに掲げ、コロナの「感染テスト」にも熱心だ。中学などでは集団検査を実施中。症状のない陽性者を確認、隔離などして本人を保護し、周囲への感染も防止するためだ。また、薬局の周辺には、薬剤師でも実施可能で感染の有無が20分後には判明する簡易検査用のテント式の仮施設が設置。

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