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安倍・トランプ政権が教えるディスインフォメーション対策の重要性

事実と虚構の区別を必要としない人々をつくり出し操作する恐ろしさ

塩原俊彦 高知大学准教授

 嘘を平然とつき、民心を騙し、自分の権力維持に利用する。そんな人物が日本でも米国でも権力のトップに就いてきた。日本は安倍晋三、米国はドナルド・トランプである。

 安倍は、「桜を見る会」の前夜祭に関して、事実と異なる説明を繰り返してきた。トランプは、大統領選にからんで、「選挙が盗まれた」という嘘を吐きつづけている。二人とも、「意図的で不正確な情報(まったくの虚偽情報も含む)」である「ディスインフォメーション」を流し、それにより、彼らの言葉を信じる人々を味方につけ、煽りたて、自らの権力を保持しつづけることに躍起になってきたことになる。

 こうした手法は、かたちを変えて、中国やロシアでもとられているし、その昔、ドイツのアドルフ・ヒトラーも利用した。だからこそ、政治学者のハンナ・アーレントはその著書『全体主義の起源』のなかで、「全体主義的支配の理想的な対象は、確信したナチスや確信した共産主義者ではなく、事実と虚構の区別(すなわち、経験の現実)と真と偽の区別(すなわち、思考の基準)がもはや存在しない人々である」と指摘している。

 現代の恐ろしさはまさに、権力者が自らディスインフォメーションを仕組むことで、事実と虚構の区別や真と偽の区別を葬り去り、そうした区別を必要としない人々をつくり出し、故意に操ろうとしているところにある。

 ここではまず安倍、ついでトランプのディスインフォメーション工作について論じ、これに対する対策について考えてみたい。

拡大安倍前首相とトランプ米大統領=2019年8月25日、フランス・ビアリッツ

安倍のディスインフォメーション工作

 安倍の嘘については、「毎日新聞電子版」の記事「「ホテルの明細書あれば1000万%アウト」 桜前夜祭の野党ヒアリング詳報」に登場する原口一博立憲民主党衆議院議員のつぎの発言が的を射ている。

 「安倍氏は国会答弁で「事務所は関与していない」とずっと言っている。2番目に「明細書はない」と。3番目に「差額は補塡していない」と。今回報道されたことが事実だとすると、三つともすべてウソだったことになる。まさに国会を冒とくし、よくぞこれだけ真逆のことが言えるもんだと思うが、罪は何なのか。」

 同じく、「事実と違う答弁を繰り返した安倍氏…「桜を見る会」前夜祭 立件可否焦点に」「安倍氏の「事実と異なる国会答弁」33回、分析すると…三つのパターン」を読めば、安倍がいかにディスインフォメーションを垂れ流してきたかがよくわかる。

 問題は、首相という最高権力者が発するディスインフォメーションに対して、検察もマスメディアも無力であった点である。だれもが「不正確」な情報と思いながら、領収書や明細書という動かぬ証拠をつきつけられないまま、安倍の嘘を見過ごさざるをえなかったのだ。もちろん、検察当局が調べれば、その段階で白黒の決着をつけることはできただろうが、検察当局による現役首相の捜査を望むのは不可能だろう。

 政治問題化すると、事実の解明ができなかったり、遅れたりするのはやむをえないのか。今回の嘘発覚から導き出せる教訓は、第一に、米国の特別検察官を模したような制度の導入だろう。米国の場合、大統領や閣僚に不正関与の疑いがある場合、司法長官が特別職の捜査官として特別検察官を任命できる権限をもち、通常の検察官の指揮命令系統から独立して捜査にあたることができる。ただし、司法長官は大統領によって任命された者だから、この制度を模して、法務大臣による任命のもとに特別検察官を置くような制度を日本に導入しても機能するとは思えない。たとえば、国民の「電子請願」のもとに自動的に特別検察官を設置できるような制度が必要なのではないか。しかし、これもハードルが高い。

 第二に、もっと穏当なやり方として、独立した第三者がホテル側に事情説明を求め、事実関係の解明にあたることができるような制度をつくればいい。安倍は問題発覚当時、「ホテルの営業の秘密にかかわる資料提供には応じられない」との理由で、補填代金の支払いの事実を隠蔽しようとしていた。だが、その場合、第三者が営業実態を調査し、その結果に基づいて安倍の嘘を指摘するくらいの仕組みをつくるのはそう難しくはないだろう。たとえば、国会議員の4分の1ないし100万人の電子請願があれば、営業の秘密や個人の秘密などの問題があっても、独立した第三者が機密保持を前提に調査し、事実関係を明らかにできるような仕組みを設ければいいのである。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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