日本企業も責任を全うせよ
2020年12月07日
ジョー・バイデン米大統領が誕生すれば、米国政府は人権問題を重視する外交政策を確実にとるだろう。その標的の一つは、中国政府によるウイグル人に対する弾圧となるに違いない。
この問題は米国政府だけの話にとどまらない。米国系企業をはじめとする外国企業が、迫害されたウイグル人を労働力として利用している現実への批判となって現れるだろう。企業は自社製品のサプライチェーンに責任をもち、それらが子どもを使った低賃金労働で生産されていたり、あるいは、強制収容所のような場所でつくられたりすることのないようにしなければならない。これこそ「サプライヤー責任」だ。
もちろん、こうした企業責任は日本の会社にもあてはまる。だが、日本企業の多くは人権問題をないがしろにしてきた日本政府と同じように、この問題への対応が十分とは言えない。「サプライヤー責任」という世界の潮流に疎い日本企業に喝を入れたい。
「ニューヨーク・タイムズ電子版」(2020年11月9日)が伝えたところによると、米アップルは、アイフォーン(iPhone)のサプライチェーンを構成する台湾の会社ペガトロンがその中国の工場で雇用する学生向け労働規則に違反していた事実を隠蔽していたことがわかって以後、同社が是正措置をとるまで新しいビジネスをしない処分を科すとした。
実は、アップルは2007年から毎年、「サプライヤー責任報告」を公表しており、2019年3月版では、「これまでに、20の製造サプライヤー施設がアップルのサプライチェーンから排除された」ことを明らかにしている。さらに、2018年にアップルが行ったサプライヤー評価は770件で、45カ国で279件の製錬所・精製所の第三者監査を実施したと記されている。
米国には、2010年制定の「ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法」(第1502条)に基づいて、いわゆる「紛争鉱物」と武装勢力との関係を断ち切る目的で、個別企業の特定鉱物の鉱山とのかかわりを証券取引委員会が報告するよう義務づけられたことから、1000社を超す上場企業が紛争鉱物報告書の提出を行っている。この延長線上で、アップルは「サプライヤー責任」を果たすべく報告書を公表する一方、サプライヤーに対しては、「アップルサプライヤー行動規範」の遵守を求めるようになる。同規範は、労働・人権、安全衛生、環境保護、倫理、経営慣行に関するサプライヤーの行動について、アップルが期待することを概説したものだ。
2017年7月、欧州連合(EU)でも紛争鉱物規則が発効した。これに基づき、EUに鉱物を輸入する事業者は2021年1月から報告開示義務が課される。2018年には、経済協力開発機構(OECD)によって多国籍企業行動指針に基づいた「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が出され、その日本語訳も2019年に公表されている。「責任ある鉱物調達」だけでなく、事業者の活動が労働者、人権、環境、贈賄、消費者およびコーポレート・ガバナンスに負の影響をもたらす可能性があることも認識した上で、企業が自らの事業、サプライチェーンおよびその他のビジネス上の関係に関連する負の影響を回避し、それらに対処するため、リスクベースのデュー・ディリジェンス(ある行為者の行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか負うべきでないかを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務および努力のこと)を実施するよう勧告している。
こうした世界の潮流からみると、日本政府や日本企業がいかに遅れているかがわかるだろう。もちろん、米国に上場し、紛争鉱物取引にかかわっているキヤノンのような企業は少なくとも「責任ある鉱物調達」には関心をもっている。だが、世界の大企業が紛争鉱物だけでなく、環境、人権などのさまざまな問題をサプライチェーンと関連づけて事前に注意するようになっている現状からみると、総じて日本は出遅れていると
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