メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

皮肉な話だが、隠蔽体質のロシアの「デジタル化」に学べ

DX、クラウドプラットフォーム、公務員の削減

塩原俊彦 高知大学准教授

 2020年11月13日付でまとめられた「IT基本法への提言」は予想通り、お粗末な内容になっている。すでに、このサイトの拙稿「哲学のない哀しい日本の「デジタル憲法」:IT基本法改正に深刻な人材難」「菅政権によるデジタル・ガバメントは失敗する!?:政府をオープンなものにする発想に欠けた安倍政権を継承するのか」において論じたように、そもそもの基本姿勢がまったくなっていない。開かれた政府というオープン・ガバメントというデジタル化の「一丁目一番地」が無視されているからだ。

 このマヌケな「提言」には、もう一つ、看過できない欠陥がある。それは、デジタル化と効率化を結びつけて公務員を削減する(実際に減らさなくても配転する)という発想がまったくない点だ。強調されているのは、デジタル化による行政サービスの向上とデジタルデータなどの安全保障環境の整備にすぎない。そこで、デジタル化と効率化を結びつける視角から、この問題を掘り下げてみたい。

ロシアのデジタル発展・通信・マスコミュニケーション省を参考にせよ

 「哲学のない哀しい日本の「デジタル憲法」」では、フランスの「デジタル共和国法」を紹介しながら、日本の問題点を指摘した。今回は、ロシアで進むデジタル化と、それを行政の効率化に明確に結びつけようとする改革について論じたい。

 ロシアには、2018年5月15日付大統領令で設立が定められた、デジタル発展・通信・マスコミュニケーション省が存在する。通信・マスコミュニケーション省をもとに設置されたものだが、この省が中心になってロシアにおけるデジタル化を推進している。

 皮肉なことだが、ロシアもオープン・ガバメントには消極的だから、同じく隠蔽体質の日本政府が見習うにはちょうど適しているかもしれない。少なくとも、まだデジタル庁さえ存在しない日本にとって学ぶべき点がたくさんある。

拡大Willrow Hood / Shutterstock.com

行政のデジタル・トランスフォーメーションという視点

 第一に、行政のデジタル・トランスフォーメーションを積極化し、同時に行政の効率化につなげるという視点がきわめて重要である。拙稿「デジタル・トランスフォーメーション(DX)は世界の潮流:「システム2」思考の大切さを忘れずに」で指摘したように、DXは「全ての人々の暮らしをデジタル技術で変革していくこと」を意味しているが、「人工知能(AI)などのデジタル技術と膨大なデータを組み合わせ、ビジネスモデルを変革する」という側面もあることから、ビジネスに関連づけて議論されることが多い。だが、これを行政サービスに適用すれば、行政サービスの効率化にもつなげられる。

 ロシアのデジタル発展・通信・マスコミュニケーション省は2020年6月、ロシア政府に2020年の行政システムのDXのための計画を送付した。このなかで、「スーパー・サービス」と呼ばれる市民の生活状況に関するデータに基づく公共サービスの積極的な提供へと行政サービス部門を変革することが提言されている。2020年に「社会的に重要」とされたスーパー・サービスには、①出生、②社会支援オンライン、③労働関係オンライン、④年金オンライン、⑤障碍者支援オンライン、⑥大切な人を亡くした時のサポート、⑦健康オンライン、⑧大学オンライン入学――などがある。

 先に紹介した「提言」には、「健康」や「教育」について曖昧な表現があるだけなのに対して、ロシアのDX計画はずっと具体的で明確だ。加えて、そのDX計画には、政府機関における「データの体系化と棚卸し」が明言されている。

 これに対して、「提言」では、「価値の源泉としてのデジタルデータ」の話があるだけで、データ情報の公開についての明確な記述がない(11月26日に開催された「データ戦略タスクフォース」の資料には、オープンデータの推進といったかたちの記述があるが、具体性に欠けている)。これでは、「行政にDXを導入し、行政サービスの効率化と結びつけようという姿勢がまったくない」と指摘されても仕方ないだろう。

 日本の場合、省庁ごとにDXを行政に導入するという視点がまちまちだ。経済産業省のサイトには、2018年10月31日付で「世界で進む行政のデジタル・トランスフォーメーション。今、日本がすべきことは?」という記事が公表されている。経済産業省は比較的早くから、DXの行政への導入という問題意識をもっていたかにみえる。総務省の場合、2019年3月に公表された資料のなかで、「海外のデジタルガバメントの動向から、日本の自治体のデジタルトランスフォーメーションの方向性を考えるべきとの意見があった」との記述がみられる。地方自治体を所管する総務省は2019年になって、多少とも自治体のDX化という視点をもてるようになったようだ。しかし、他の省庁は概してDXの行政への導入に無関心でありつづけているように思われる。

 日本の「提言」では、「置いてきぼりをつくらない」として、「デジタル社会は、転換する変化を強要せず、丁寧にその意義と効用を伝え、その成果が国民に喜ばれなければならない。そのための責任を持った積極的な体制を確立することによってのみ、迅速なDXを推進できる」と書かれているにすぎない。このとき、DX推進が行政に向かうのか、ビジネスに向かうのかさえはっきりしないのである。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

塩原俊彦の記事

もっと見る