メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

とうとう米大統領選の投票日を迎えた

[214]ワシントンDC、ビジュアル・アート、トランプ熱烈支持者、投票所……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

10月28日(水) このところの移動続きで少しばかり疲れたが、体調は悪くない。毎日欠かさず続けてきた検温も安定していて36度あたりを前後している。

 テレビをつけたら、ミシガン州のランシングで、FOXニュースのジョン・ロバーツ記者の隣で作業していたMSNBCの記者カール・ペリーがまだランシングから生中継でリポートしていた。FOXとの間には緊張関係があるらしく、彼らは一言も口をきいていなかったばかりか、視線さえ合わせようとしていなかった。何だかジョン・ロバーツのようにはなりたくないと思っているのだろうか。わかるような気がする。カール・ペリーは郵便投票の数の歴史的な多さについて、郵便投票の総数が今日現在で7181万人にも達していることに触れていた。

 今週の「報道特集」は全枠で大統領選挙を報じる方針だという。何とか追加取材をしていこう。僕は大統領選における文化のちからを報じたいものだと常々思っていたのだが、そういうことがクソ真面目なスクエアな考えの持ち主にはなかなか通じないものだ。

 池原さんと相談して、ワシントンDCを拠点に活動している女性アーティストのビジュアル・アートを取材することになった。それはDC市内の公園の敷地を使って、コロナの死者を象徴する白い旗を、死者の数にそって(今日現在23万8000人あまり)地面に1本1本植えつけて、結果的にモニュメントをつくっていくというコンセプチュアルかつビジュアルな作品なのだった。

 文化のちからで言えば、あとは、世界的なチェリスト、ヨーヨー・マの投票呼びかけのYouTube映像を使っての情報とか、このところトランプが支持者集会の締めで必ず使っているヴィレッジ・ピープルの大昔のヒット曲「Y.M.C.A.」をめぐって、NBCの人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」がパロディで「『Y.M.C.A.』を使うな、金払え」と反撃している替え歌など、頭を柔らかくして伝えていくパートができないものかと考えていた。こういう場面もまた大統領選なのだから。それが東京にどこまで伝わっているのか、あるいは僕らのチーム内でもどれだけその面白さを共有できているのかが不安なところがある。これはチームを組んで動く場合に得てして生じやすい課題でもあるのだが。

 RFKスタジアム近くのその場所に到着してみて息をのんだ。スタッフみんなが興奮しているのが伝わってくる。お天気がよくて、野外のその敷地には白い旗がびっしりと林立していた。風が吹くと波立つ。何人かが旗を植える作業をしているのが見えた。

コロナの死者を象徴する白い旗を広がるスザンヌ・ファーステンバーグさんの作品=撮影・筆者拡大ワシントンの公園にあるスザンヌ・ファーステンバーグさんの作品。コロナの死者を象徴する白い旗が広がる=撮影・筆者

 お目当てのアーティスト、スザンヌ・ファーステンバーグさんがそこにいた。直感的にわかった。素敵な帽子を被っていて、いかにもアーティスト。お互いマスクをしているので顔はわからないけれど、短時間にいろんな話をしたような気がする。住んでいるメリーランド州のベセスダでとっくに期日前投票は済ませた、と。ホスピスでボランティアとして働いていたことがあり、命の大切さを思い知ったという。

 この旗の数。ボランティアで植える作業に加わる人がそれなりにいるようだ。旗のいくつかには名前が書かれているものもある。

 たまたまだったが、医師である夫が新型コロナウイルスに感染して亡くなったという女性が作業に加わっていた。話を聞いた。再婚だったそうだが、死の重さの衝撃に耐えかねているようだった。

夫をコロナウイルス感染で亡くした女性=撮影・筆者拡大夫をコロナウイルス感染で亡くした女性=撮影・筆者

 スザンヌさん曰く、地元のローカル局や外国のメディアが取材に訪れたが、ネットワーク局が来ない、とちょっと不満げだった。まあ、これが文化のちからなのだろう。スザンヌさんにオノ・ヨーコやメレディス・モンクの話をしたら身を乗り出してきた。変なJapaneseだと思ったのだろう。風が吹いて死者たちが囁いているように旗が揺れていた。

スザンヌさん(左から2人目)と=筆者提供拡大スザンヌさん(左から2人目)と=筆者提供

 15時半からヴァージニア州のジョアンさん宅を訪ねる。ジョアンさんは、4年前も、中間選挙の時も、今年の大統領選挙の予備選のキックオフの時も、定番のように訪ねてきたヒスパニック系(プエルトリコ出身)アメリカ人のトランプ熱烈支持者である。ジョアンさんはHipanic Prosperity Initiativeという組織の委員もやっている。トランプ大統領の私的諮問委員会のひとつだという。

 コロナ禍で今回は自宅の中でのインタビューとはならず、玄関先でのインタビューとなった。この一角でトランプ支持のヤードサイン(立て看板)をこれだけたくさん掲げているのはジョアンさんの家だけのようだ。ジョアンさんはこれまでにもまして、とにかくトランプを称賛するばかりだったが、ちょっとばかり、「自分はアジア人だがブラック・ライブズ・マター運動には共感する」と告げると猛烈な勢いで反論してきた。要するに、それぞれの人種が自分たちの人種の命が大事だと主張しだしたらかえって対立するだけだろうとか。

 また、いつかジョアンさんとは話をする機会が来るかもしれない。トランプを絶対視している彼女が大統領選挙後、どのような人生を歩むだろうか。

 ワシントンDCのホテルに戻って気持ちを整理する。あの旗のビジュアル・アートは素晴らしかったな、と思う。

 夜、ワシントン支局勤務時代の仲間と久しぶりに会う。トランプ政権が外国プレスに対するIビザ発給を制限する動きがあって、これが非常に懸念されているという。僕は全く知らなかったが、Iビザ発給が最も多いのが、イギリス。次が日本。中国のメディアにはアメリカ政府はIビザを発給していないのだという。そうなのか。知らなかった。新華社やCCTVはどうやってアメリカで取材しているのだろうか。

 また、在米日本メディアの各支局のコロナ・パンデミック下での動き方に、それぞれの企業や組織のカラーが濃縮して表れているのではないか、との見立てを聞いて、ふんふんと頷きたくなった。面白い。僕が一緒に動いているJNN(TBS系)や、最近、国営色が強くなっているNHKは、それでもかなり活発に現場取材を行っているけれども、新聞社や民放のなかには現場取材を半ば放棄しているようなところも垣間見られるようだ。大変だなあ、と思う。

 日本からの連絡で、毎日新聞の夕刊に辺見庸のインタビュー記事が載ったみたいだ。「首相の『特高顔』が怖い」って。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

金平茂紀の記事

もっと見る