完全無償化に向けた「次の一歩」に
2020年12月06日
公立小中学校の授業料が無償なのはあたり前です。義務教育だから当然だと皆さんはお考えだと思います(私もそうです)。義務教育の授業料が有償だったらとんでもないことになります。
児童生徒一人当たりの学校教育費を見てみると、小学校で93万8,537円、中学校で112万5,820円の税金が投入されています。もし小中学校が有償だったら、子どもが2人いる家庭は可処分所得のかなりの割合を授業料にあてることになるでしょう。
母子家庭の平均年収は約290万円といわれているので、母子家庭ではとても子どもを有償の学校には通わせられません。低所得の家庭はもちろんのこと、中間層も授業料負担で困窮化することでしょう。就学率100%は実現不可能になるかもしれません。「小中学校が無償ではない」という状況は、今では想像もできません。
また、小中学校の教科書が無償なのは今ではあたり前です。義務教育だから当然だと思います。しかし、小中学校の教科書が全面的に無償になったのは昭和38年のことです。それ以前は教科書を購入しなくてはならず、低所得層には重い負担でした。しかし、全国の保護者や市民の声を踏まえ、政府が教科書の無償化に踏み切りました。
次に「義務教育だから無償であたり前」になるのは学校給食であるべきです。文部科学省は、学校給食法において義務教育段階における「学校給食の普及充実及び学校における食育の推進」を行うとしており、給食の実施を呼びかけています。国の方針として学校給食を無償化する妥当性は十分あります。
すでに学校給食の無償化を実現している自治体は徐々に増えています。2017年度で約4.4%(76自治体)が給食を無償化しています。地方の小規模な市町村が多いようです。
諸外国の状況を見ると、給食費の無償化の状況はバラバラです。北欧のフィンランドやスウェーデンでは小中学校の給食は無償です。数年前に英国では保守党政権下で小学校1,2年生の学校給食が無償化されました。お隣の韓国では約7割の自治体が小中学校の給食を無償化しており、小学校に限れば9割の自治体が無償化を実施しています。
地域によって給食費の金額は異なりますが、家庭の平均的な負担額は年間5万円前後です。子どもの7人に1人が貧困という状況の日本では、多くの家庭にとって年5万円の負担は決して軽くありません。その負担軽減は、貧困対策(再分配政策)として有効です。
学校給食の無償化は、貧困世帯だけではなく、すべての子育て世帯が対象になります。そのため不公平感がありません。現役世帯向けの社会保障給付の多くは所得等の審査が厳しく、申請プロセスでスティグマ(世間から押しつけられる恥や負い目の烙印)を負わされることになります。
給付を受けるために申請をさせて審査をする「選別主義」では、多くの人が「恥をしのんで」申請せざるを得ず、申請者に無力感をいだかせ、申請者の自尊心を傷つけます。他方、申請しなくてもすべての人が対象になる「普遍主義」であれば、申請者にスティグマを負わせることはありません。学校給食の無償化は「普遍主義」にたった給付であり、スティグマによる社会の分断を生みません。
現行制度においても生活保護や就学援助制度のなかで学校給食費が支給されていますが、これも保護者にも子どもにもスティグマを負わせかねない制度です。学校給食の無償化により貧しい家庭の子どもたちの心理的負担を軽減できます。給食費の未納が話題になったこともありましたが、担任の先生から「給食費を払いなさい」と言われる子どもが心にどんな傷を持つか
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