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W杯カタール大会の建設工事に動員された外国人労働者の悲惨な現実

[13]過密な住環境で感染が拡大、食料の物乞いも

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 カタールはペルシャ湾岸にある人口290万の小国だが、天然ガスの世界有数の生産国で、一人当たりの名目GDP(国内総生産)は世界9位という富裕国である。2022年には国際サッカー連盟(FIFA)のワールドカップ(W杯)も開催される。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大がW杯会場の建設工事を担う外国人労働者に深刻な影響を与えている。

 カタールでは2月29日に最初の感染者が確認された後、4月、5月と急増し、5月末に1日2355人まで増えた。政府は都市封鎖策をとり、8月には1日200人台まで減り、現在に至るまでそのまま推移している。12月3日時点での陽性者は13万9256人、死者239人である。

カタールの新型コロナウイルス感染状況(2020年12月3日時点) 出典:世界保健機関拡大カタールの新型コロナウイルス感染状況(2020年12月3日時点) 出典:世界保健機関

 カタール政府は、陽性者に比べて死者が少ないことを「徹底した検査で無症状感染者を捕捉し、社会的距離をとるなど感染予防策を実行した成果」だと標榜してきた。

カタール・ドーハのショッピングセンターで=2020年7月 Noushad Thekkayil/Shutterstock.com拡大カタール国民のコロナウイルス感染は抑えられているようだが……=2020年7月、カタールの首都ドーハのショッピングセンター Noushad Thekkayil/Shutterstock.com

 しかし、10月4日に米国のFOXニュースのサイトが「カタールはW杯開催のためにコロナ感染で偽証したのか?」というタイトルで、英国に拠点を置くコンサルタント会社「コーナーストン・グローバル・アソシエーツ」の報告書「2022年W杯はカタールで開催されるのか?」を特報した。

 記事では「カタールでW杯プロジェクトに関わる主要な建設会社がつくった内部メモによると、多くの労働者がコロナウイルスに感染し、死亡したが、コロナによる死亡者数としては報告されていないという疑念が持ち上がっている」としている。

 報告書では「カタール(政府)はコロナによる死者はわずか201人と主張し、死亡率は0.17%としているが、医療専門家は死者数に疑問を呈し、死亡率も少なすぎる」という。死者が「201人」だった9月4日時点での確認陽性者の累計は11万9420人で、100人当たりの死者は確かに0.17人となる。だが、報告書ではコロナで死亡したネパール人やインド人の遺体が本国に送られたことを指摘した上で、「カタール政府はコロナによる死者を正しく報告せず、国際的な保健医療関係者に誤った情報を出していることを示唆している」と書いている。FOXニュースは報告書について、カタール外務省、米国など在外カタール大使館にコメントを求めたが、回答はなかったとする。

 また、コロナ死の過少報告疑惑は、W杯開催への「新たな苦境」とし、すでにW杯誘致についてFIFA理事を買収した疑惑があることに言及している。米司法省は4月に、元FIFA理事3人がカタール開催への投票と引き換えに賄賂を受け取ったとして告発したとするが、カタール政府は買収を否定している。

 さらにFOXニュースは、W杯準備に向けた外国人労働者の酷使が、コーナーストーン社の報告書で重視されていると指摘している。カタールは2010年にW杯開催が決まった後、サッカースタジアム9つの新規建設のほか、地下鉄など大規模なインフラ整備を進めており、その建設工事を外国人労働者に依存している。そのため外国人労働者が急増し、200万人を超えている。


筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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