伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業
愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国カルチャー──隣人の素顔と現在』(集英社新書)、『韓国 現地からの報告──セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)など、訳書に『搾取都市、ソウル──韓国最底辺住宅街の人びと』(イ・ヘミ著、筑摩書房)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
12月3日、韓国で大学入試のための共通試験(大学修学能力試験)が実施された。全国の受験生は49万3000名、昨年(2019年)より減少傾向にあるという。
「コロナのせいで、勉強が十分にできなかったと思って、今年はあきらめた受験生がいたのでは」
ニュースではそう伝えていたが、そもそも今年の高校3年生は彼らが小学校に上がる時に早生まれの基準が変わったせいで全体の人数は少ない。にもかかわらず、夏頃には受験生が増えるという予想も出ていた。
まだ「一度も大学に行っていない」という新入生がインタビューに答えていた。
「ずっとリモートですから、キャンパスに愛情がわきません。こうなったら昨年失敗した第一志望をもう一回めざすという可能性も……」
上昇志向の強い韓国人ならあり得る話だと思って聞いていたが、そういう人は極々一部だったのだろう。
「もう一回受験勉強するって、言うほどやさしいことじゃないですよ。それでなくても、コロナでストレスマックスなのに」
知り合いの大学生に聞いてみたら、再受験も一瞬考えたがすぐ気持ちが折れたと言っていた。たしかに下手に受験勉強など始めて、今の大学の単位を落としたら目も当てられない。それに日本ほど表には出てこないが、経済的な問題もあるはずだ。
それはさておき、塾や予備校もたびたびコロナによる休業命令が出たり、今年は受験生にとって落ち着かない環境であったのは事実だ。また、コロナに翻弄された現役生(高校3年生)に比べると「今年は浪人生有利」とも言われ、それを慮ってか、「試験問題はいつもより簡単だった」という。
またニュースでは、受験生が少なかった理由として、そもそも親が今年の受験をあきらめさせたケースも多いようだと言っていた。これは韓国で暮らした人なら大いに納得すると思うが、日本人に比べて韓国人の親の方が、子どもの受験にも、子どもの健康にも、全般的に関心が強い。よって学校の休校措置を要望する親も多く、それは今回の新型コロナに限らず、かつてのMERS(中東呼吸器症候群)や新型インフルエンザの時も同様だった。まだ校内に感染者が1人もいない段階から休校措置が発令され、アメリカン・スクールなどから「過剰だ」と抗議があったほどだ。
それもあって、2020年3月の新学期から今まで、地域と学年によって若干のばらつきはあるものの、韓国の学校で通常授業が行われた期間はわずかだった。
「ためしに数えてみたら、うちの子(小学校3年)が学校に通ったのは、1年で30日もなかった」
ソウル近郊で暮らす友人は言っていた。
感染が拡大し医療の逼迫も心配され始めた11月末からは一段と制限が厳しくなり、ソウル市等ではすでに幼稚園から高校生まで分散登校、さらに12月7日からは中高生は全面的にリモート授業に転換される。桁違いの感染者や犠牲者を出しながらも「学校だけは閉めない」という欧州の国々とは大きな違いがある。
ちなみに12月初頭の現在、韓国の陽性者数は500~600名余り。日に2000名以上の陽性者が出ている日本に比べて感染は抑制されているようにも見えるが、市民生活における制限ははるかに厳しい。
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