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スペインのコロナ対策に「独裁」批判 コロナ長期化の中での政治に必要なものは

非日常が日常に変わる中でも「痛み」を忘れてはならない

武藤祥 関西学院大学教授

 バカンスシーズン後の9月頃から始まったコロナウイルスの第二波が猛威を振るう中、ヨーロッパにおいて最も深刻な被害が見られるスペインでは、10月25日、2度目の「非常警戒体制」が宣言された。中道左派のスペイン社会労働党を率いるサンチェス首相がこの措置を発表した直後、スペインのツイッターでは「独裁(Dictadura)」という単語がトレンドワードに入った。

 現在マドリードに在住している著者は、非常警戒体制が再び出されることを予想し、また第二波に対処するためにはやむを得ないと考えていた。さらに、発表された措置は、夜間外出禁止措置や、自治州間の移動を制限するなど、3月に実施されたロックダウン(都市封鎖)に比べるとはるかに軽微な内容だった。だからこそ、「独裁」という苛烈な言葉で政府の措置への反発が示されたことに、驚きを禁じ得なかった。

連帯の拍手から抗議のフライパン叩きへ

拡大スペイン政府の新型コロナ対策に抗議して鍋を打ち鳴らす人々=2020年5月19日、スペイン、ア・コルーニャ

 3月14日に1度目の非常警戒体制が宣言された際、極右政党Voxなど一部を除いて、与野党問わず幅広い勢力が賛同した。もちろんそこには、未知のウイルスという目に見えない、しかし確実に人々の命を奪っていく「敵」に対し、党派的対立をしている場合ではないという判断があったのだろう。

 しかし、コロナウイルスに対してよくも悪くも慣れが生じる中、政府の対策に対する「総論賛成・各論反対」というべき雰囲気は失われた。非常警戒体制が、議会での十分な審議を経ずに延長されていくことに対し、野党第一党の国民党(中道右派)は議会を軽視した措置であると反発し、5月7日の延長措置に関する採決の際には棄権に転じた。さらにVoxは「進歩主義者による独裁、全体主義」という最大級の非難を浴びせた。

 未曽有の危機を前にした連帯感は、議会政治の場でも社会全体でも徐々に希薄になっていった。ロックダウン開始直後から、スペインでは夜8時になると人々が医療従事者を労うため、ベランダから拍手を送るという自発的な動きが見られた。だが、ロックダウンが段階的緩和に向かう中、8時の拍手に代わって、夜9時に人々が政府への抗議の意思表示として鍋やフライパンを叩くという行動が見られるようになった。

 この頃、時間の制約はあったものの散歩が可能になり、筆者も自宅近辺を散歩する際、よくこの光景に遭遇した。鍋を叩く人々の多くは、ベランダにスペイン国旗を掲げ、時には大音量でスペイン国歌を流しており、いわゆる右派の傾向を持つことは明白であった。5月23日には、Voxの呼びかけに応じる形で、多くの人々が車窓からスペイン国旗を掲げ、クラクションを高らかに鳴らしながら車を走らせるというデモが繰り広げられた。

 このような活動に参加する人々は、コロナウイルスの感染拡大を防ぐためのロックダウンは「緊急事態に乗じた強権的な措置」であり、これに対する抗議活動は「人々の自由と民主主義的な政治を回復させるための闘い」であると捉えたのだろう。

 もちろん、スペインで取られた措置は、憲法に根拠を持つ合法的なものであるが、市民的自由・民主的手続双方の観点からするとある種の危うさを孕んでいることは、当初から予見されていた。法的強制力を持たない自粛「要請」が出された日本で、欧州並みの措置を取るべきか否かをめぐってさまざまな議論が起こったことも記憶に新しい。

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筆者

武藤祥

武藤祥(むとう・しょう) 関西学院大学教授

1978年生まれ。立教大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。立教大学法学部助教、東海大学政治経済学部准教授などを経て、2018年4月より現職。専門はヨーロッパ政治史(スペイン、ポルトガル)、比較政治。著書に『「戦時」から「成長」へ-1950年代のフランコ体制における政治的変容』(立教大学出版会)、『スペインの歴史を知るための50章』(共著、明石書店)など。