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菅義偉内閣の支持率が発足3カ月で急落した四つの要因

コロナ危機下で不可欠な内閣への世論の信頼回復は可能か

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 直近の各種メディアの世論調査で、菅義偉内閣の支持率が急落、不支持率が増加している。新型コロナ感染症が「第3波」の拡大局面にあるとき、政府に対する国民からの信頼が薄れていくことは、なによりも恐ろしいことだ。

 高支持率でスタートして3カ月。今、なぜ内閣支持率が急落したのか。まずは、その原因を突き止め、それを是正して内閣に対する信頼を取り戻すことが急務であろう。首相や政権からの指示や呼びかけに、多くの人が耳を貸さなくなるような事態は、どうしても避けなければならない。

臨時国会が事実上閉会し、記者会見する菅義偉首相=2020年12月4日午後6時47分、首相官邸、代表撮影

10ポイント以上下がった内閣支持率

 共同通信社が12月5、6の両日に実施した世論調査によると、内閣支持率は前回11月調査から12.7ポイントも下がり50.3%となった。一方、不支持率は前回と比べて13.6ポイント増の32.8%に達した。

 やはり12月5、6の両日におこなわれたJNNの世論調査でも、傾向は同じだ。支持率は前回11月調査から11.5ポイント下落して55.3%に、不支持率は12.9ポイント増えて41.1%になっている。

 支持率や不支持率が前月と比べて10ポイントを超えて動くのは3年ぶり(当時は安倍晋三政権)というが、発足して間がない内閣でこれだけ急落するのは深刻な事態だ。

 世論調査の結果を参考にしながら、①新型コロナウイルスへの対応、②他の政策課題への対応、③“”身内の金銭スキャンダル、④メディアや国民に対する姿勢――の四つの観点から、菅内閣の支持率急落の要因について考えてみよう。

経済再生に傾く政権への懸念

 まずは①のコロナへの対応についてである。

 アメリカをはじめ世界のほとんどの国で、新型コロナに対して政権が感染対策と経済再生のどちらに重点をおいて取り組むかが、注視されている。たとえばアメリカの大統領選挙では、経済再生を優先するトランプ大統領が、人命尊重のコロナ対策を優先するバイデン氏に敗れている。

 菅政権はどうか。コロナ対策に取り組んでいることは認めつつも、「Go To トラベル」などへの強硬姿勢をみると、次第に経済再生に傾いているように見える。

 共同通信の調査では、コロナ禍で「感染防止」と「経済活動」のどちらを優先すべきかとの問いに、「どちらかといえば」を含め「感染防止」を挙げる人が76.2%に上り、「経済活動」を優先するべきだとの答えは、「どちらかといえば」を含めて21.1%にとどまる。また、政府のコロナ対策を「評価しない」が55%と、「評価する」の37.1%を大きく上回り、「評価する」が上回っていた前月調査とは正反対の結果になった。

 日本中の多くの人たちは今、新型コロナの急速な感染拡大に“医療崩壊”の危機が迫っていると、ひしひしと感じているのであろう。病床や看護師の不足など医療体制の不備は、第1波のときから重大視されていた。だから世論は厳しくなる。にもかかわらず、菅首相が「Go To トラベル」にこだわり、兆円単位の経済対策を次々と発表するのをみて、「経済活動よりも感染防止なのに」と地団太を踏んでいる様子が目に浮かぶ。

 おまけに、そこに費やされるのは、もともと自分たちが払った税金である。使い方をもっと慎重に考えてくれという声が、ますます大きくなっている。

日本学術会議、対中国外交の不手際も響く

 次に、②の他の政策課題への対応についてみてみよう。

 コロナ禍のなか、国民の多くが関心を持つ課題として、日本学術会議の任命拒否問題と、香港や尖閣諸島への中国の対応などが挙げられるだろう。

 菅首相は臨時国会閉会を受けておこなわれた12月4日の記者会見で、学術会議の問題に関して、「私は、かなり(大きく)なるのではないかなというふうには思っていました」と、 “笑み”を浮かべて答えた。

 かなり問題化すると分かっていたなら、なぜ、未曽有のコロナ禍の最中(さなか)に、あえて断行したのだろう。こうしたどこかちぐはぐな対応も、内閣支持率が低下した一つの原因であろう。

 また、民主派が次々と弾圧される昨今の香港情勢について、政府のスポークスマンである加藤勝信官房長官は、弱々しい声で“懸念”を表明するばかり。少なくとも強い声で“深い憂慮”を示してほしかった。

 11月下旬に来日した中国の王毅国務委員兼外相と茂木敏充外相の会談後の共同記者会見も明らかに失敗だった。沖縄県・尖閣諸島の領有権について、王毅外相に一方的な演説の機会を与えてしまった。茂木外相の対応が批判されているが、そもそも共同記者会見を開く必要はなかった。

 こうした対中国外交の不手際も、内閣支持率に影響を与えているのは間違いない。

共同記者発表に臨む茂木敏充外相(右)と中国の王毅国務委員兼外相=2020年11月24日午後、代表撮影

 ③の“身内”の金銭スキャンダルも深刻だ。ここにきて、吉川貴盛元農水相への500万円供与疑惑が発覚。大臣在任中の現金供与は典型的な贈収賄との見方も強く、事件化する公算は大きい。さらに、くすぶり続けてきた安倍晋三前首相の「桜を見る会」をめぐる「カネ」の疑惑も蒸し返された。

 安倍氏も吉川氏も、菅首相とは安倍政権以来、政権中枢を支えてきた“同志”である。いわば身内の金銭スキャンダル、「政治のカネ」という“古典的”なスキャンダルもまた、発足間もない政権にとって、相当の打撃となっている。

厳しさを増すメディアや国民世論の視線

 最後に、④の菅首相自身のメディアや国民世論への姿勢である。

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