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驕れる者は久しからず~「安倍氏立件」はあるのか

安倍前首相に壊された法治国家を取り戻すために

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

安倍氏は菅総理の最大のライバル

 まず、秘書の略式起訴で終わる最初のケースだ。朝日新聞の11月25日付一面の記事によると、「桜を見る会」前夜祭に参加した安倍前首相の地元有権者は5年間で毎年450~750人。ホテルでの飲食代などに安倍事務所が負担した補填額は916万円。一人当たりざっと2000円から3000円の補填額になる。

 有権者への寄付行為にあたるが、寄付を受けていたという有権者側の認識の立証が難しく、立件困難と見られている。しかし、検察は前夜祭全体の収支そのものを政治資金収支報告書に記載すべきだとの見方を取っており、この件で担当していた公設第一秘書らを略式起訴し、罰金刑となる見通しだ。

 このため、政治資金収支報告書への不記載の件については、安倍前首相の関与を立証できたとしても、身柄を拘束するには額が小さすぎると見られる。前首相を逮捕、起訴するには、かつて田中角栄元首相が逮捕、起訴されたロッキード事件クラスの金額が必要と言われている。

 しかし、問題は安倍前首相が不起訴となった後に登場する検察審査会の対応だ。検察審査会は検察官が独占する公訴権の行使を審査し、不当な不起訴処分がなかったかどうか検査する機関だ。この検察審査会が二度「起訴相当」の議決をした場合には強制起訴の手続きに入らなければならない。

 安倍前首相が不起訴となれば、今回検察に対して前首相を告発していた弁護士グループは検察審査会に対して審査を申し立てる可能性が高い。検察審査会の審査はまず免れがたいだろう。

 検察の不起訴、検察審査会の強制起訴を受けて裁判となった事件に、現在立憲民主党所属の小沢一郎衆院議員の「陸山会事件」があった。しかし、この事件はむしろ検察側のずさんな捜査が問題となり、政治資金収支報告書へのわずかな形式的記載ミスが問われただけだった。このため、小沢議員の無罪は確定している。

 ところが、安倍前首相の場合は、前夜祭の収支自体を政治資金収支報告書に記載することは必要ないという見解を採っており、収支をまるまる記載していない。前首相自身、記載は必要ないと国会で何度も答弁し、今年2月3日の衆院予算委員会では、追及した立憲民主党の辻元清美衆院議員から「安倍方式」とまで揶揄された。

 この常識外れの「安倍方式」は、当然検察の見解とも真っ向から対立し、検察審査会が見逃すことも考えにくい。ロッキード事件などに比べ金額は格段に小さいが、安倍前首相の認識が改めて問題となることは間違いない。このため、検察審査会の審査の結果、強制起訴を免れる保証はなく、さらに言えば無罪となる保証もない。

 今回、安倍前首相が不起訴となっても、将来的な強制起訴、有罪というケースは十分考えられる。そのコースをたどれば前首相の政治的発言力は格段に落ち、少し前に前首相周辺から漏れてきた来秋の自民党総裁選への立候補情報などたちどころに消えて失せる。そして、安倍前首相が消えれば菅首相の当面のライバルはいなくなる。(論座11月28日『菅総理と検察が安倍氏に迫る「政界引退」』参照)

拡大清和会の懇親会会場に到着し、安倍晋三前首相にあいさつする菅義偉首相=2020年9月28日、東京都港区

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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