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コロナ経済苦境下のサウジアラビアで進むワンマン皇太子の未来都市構想

[14]石油収入が激減、生活補助廃止や増税の一方で、「ネオム」事業は継続

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 サウジアラビアは3480万という人口でも、面積でも、湾岸アラブ産油国では突出した大国である。3月、4月の新型コロナウイルスの感染拡大では都市のロックダウンを行った。封鎖による経済的な打撃に加えて、世界的なコロナ蔓延で石油需要は低迷し、サウジの主要な国家財源である原油価格が暴落、二重の困難を抱え込むことになった。

 サウジの新型コロナウイルスの確認陽性者は12月10日時点で、35万9274人、死者6002人。3月初めに最初の感染者が確認された後、急速に増え、3月20日にはイスラム教の聖地であるメッカ、メディナのモスクでの日々の礼拝や金曜日の集団礼拝の停止を命じた。サウジはイスラム教の教えを国法としている国であり、信者の義務とされている礼拝に規制をもうけたことは危機の深刻さを示す。

サウジアラビアの新型コロナウイルス感染状況(2020年12月10日時点) 出典:世界保健機関拡大サウジアラビアの新型コロナウイルス感染状況(2020年12月10日時点) 出典:世界保健機関

 さらに3月下旬、サウジ政府は夜間外出を禁じる勅令を出し、4月上旬には、メッカとメディナの封鎖を皮切りに、首都リヤドを含む全国的な都市封鎖令を発出した。だが6月に入ってからは感染防止対策を取りながら徐々に経済活動が再開され、6月21日にすべての封鎖が解除された。

 この間、4月下旬にニューヨークの原油先物相場が暴落し、史上初めてマイナス取引になるなど、世界経済はパニック状態になった。6月には1バレル=40ドル台まで回復したが、サウジの国営石油会社サウジアラムコが発表した4~6月期決算は、純利益が前年同期73%減、売上高も57%減と、大きな打撃を受けた。

 国際通貨基金(IMF)は6月下旬に発表した世界経済見通し(WEO)で、サウジアラビア経済は今年6.8%のマイナス成長に陥るとの見方を示した。ロイター通信によると、IMFは新型コロナウイルスの感染拡大に起因する悪影響のほか、燃料価格の急落により産油国が直面している収入の激減を挙げ、サウジはリセッション(景気後退)に陥る可能性があると指摘したとしている。

 サウジの2019年度予算では歳入のうち石油収入が64%を占めていた。しかし、原油価格の急落による石油収入の減少と、都市封鎖による経済活動の停止によって、収入や税収が減少し、7月末の財務省の発表によると、今年度第2四半期(4~6月)の政府歳入は前年同期比で49%減となった。


筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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