[14]石油収入が激減、生活補助廃止や増税の一方で、「ネオム」事業は継続
2020年12月12日
サウジアラビアは3480万という人口でも、面積でも、湾岸アラブ産油国では突出した大国である。3月、4月の新型コロナウイルスの感染拡大では都市のロックダウンを行った。封鎖による経済的な打撃に加えて、世界的なコロナ蔓延で石油需要は低迷し、サウジの主要な国家財源である原油価格が暴落、二重の困難を抱え込むことになった。
サウジの新型コロナウイルスの確認陽性者は12月10日時点で、35万9274人、死者6002人。3月初めに最初の感染者が確認された後、急速に増え、3月20日にはイスラム教の聖地であるメッカ、メディナのモスクでの日々の礼拝や金曜日の集団礼拝の停止を命じた。サウジはイスラム教の教えを国法としている国であり、信者の義務とされている礼拝に規制をもうけたことは危機の深刻さを示す。
さらに3月下旬、サウジ政府は夜間外出を禁じる勅令を出し、4月上旬には、メッカとメディナの封鎖を皮切りに、首都リヤドを含む全国的な都市封鎖令を発出した。だが6月に入ってからは感染防止対策を取りながら徐々に経済活動が再開され、6月21日にすべての封鎖が解除された。
この間、4月下旬にニューヨークの原油先物相場が暴落し、史上初めてマイナス取引になるなど、世界経済はパニック状態になった。6月には1バレル=40ドル台まで回復したが、サウジの国営石油会社サウジアラムコが発表した4~6月期決算は、純利益が前年同期73%減、売上高も57%減と、大きな打撃を受けた。
国際通貨基金(IMF)は6月下旬に発表した世界経済見通し(WEO)で、サウジアラビア経済は今年6.8%のマイナス成長に陥るとの見方を示した。ロイター通信によると、IMFは新型コロナウイルスの感染拡大に起因する悪影響のほか、燃料価格の急落により産油国が直面している収入の激減を挙げ、サウジはリセッション(景気後退)に陥る可能性があると指摘したとしている。
サウジの2019年度予算では歳入のうち石油収入が64%を占めていた。しかし、原油価格の急落による石油収入の減少と、都市封鎖による経済活動の停止によって、収入や税収が減少し、7月末の財務省の発表によると、今年度第2四半期(4~6月)の政府歳入は前年同期比で49%減となった。
さらにサウジのコロナ対策で世界の注目を集めたのは、毎年250万人が集まるメッカ巡礼の実施である。今年は7月末から8月初めにかけての5日間だったが、コロナ対策として1932年のサウジ建国以来初めて、外国からの巡礼者を入れず、参加者は国内居住の外国人ら1万人程度に限定された。メッカ巡礼は例年、8500億円の政府収入になるとされ、巡礼の規模縮小は歳入減への追い打ちともなった。
ジャドアーン財務相は全国的な都市封鎖が続く5月中旬、大幅な歳出削減を含む緊縮財政措置を発表した。政府職員に対して支給していた月1000リヤル(約2万8000円)の生活費補助の支給を6月1日から停止し、さらに7月1日からは日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)を、それまでの5%から3倍の15%に引き上げると発表した。
付加価値税は長い間、税金がなかったサウジで2018年1月に導入された。2015年に即位したサルマン国王の実子であるムハンマド王子が2017年に皇太子となり、実権をふるうようになって行われた経済・財政改革の一部とみなされている。その時に、ガソリンや電力に対する補助金が削減され、ガソリン価格は引き上げられ、電気料金も家庭用が約3倍に上昇した。一方で政府職員の不満を抑えるために彼らへの生活補助費の支給が始まった。
今回、コロナ禍に伴う歳入減少に対応するために、一方的に生活補助を廃止し、さらに付加価値税を3倍に上げたことは、
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