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“菅流”「小政治」の強さと弱さ~危機の時代の指導者として適任か

コロナ感染症への対応、外交・安全保障、経済政策……「大政治」が必要な懸案が山積

星浩 政治ジャーナリスト

首相が直接指示しないと政策が動かない状況

  安倍政権の終焉を受けて誕生した菅政権には、「菅官房長官」も「今井秘書官」も「強力な右派勢力」もいない。政策決定の中心は財務省や外務省などの省庁に移り、自民党内の支持基盤も、菅氏が独自の派閥を持たないこともあって、二階俊博幹事長が率いる二階派頼みとなった。

 その結果、菅首相が個別政策の細部について直接、指示しないと、政策が動かない状況に陥っている。携帯電話料金の引き下げでは武田良太総務相を、デジタル化の推進では平井卓志担当相を、菅首相が直接、督励しているのが現状だ。まさに「小政治」の積み重ねである。菅首相自身、「政治にとって大切なのは、抽象的な理念を振りかざすことではなく、具体的な政策で実績を積み重ねていくことだ」と考えているようだ。

 とはいえ、コロナ対策のように、政治リーダーが的確な発信を重ねて国民の理解を得ながら、感染抑制と経済対策とのバランスをとっていく課題は、個別政策の単なる「積み重ね」だけでは解決できない。

 感染を抑えるためには、営業時間の短縮など痛みを伴う施策が必要となる。その際は、首相自身が施策の意義や将来の見通しについて丁寧に説明することが欠かせない。「Go To キャンペーン」のような景気対策を導入するにしても、感染状況で中断したり、再開したりする柔軟な判断が伴わなければならない。

 そこで求められるのは、感染症と向き合う理念を示す「大政治」である。

拡大マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループの会合で発言する菅義偉首相=2020年12月11日午後5時46分、首相官邸

理念を問われて露呈した弱さ

 理念が問われる場面では、菅首相の弱さが露呈した。日本学術会議問題はその典型だ。
6人の会員任命拒否は首相の人事権の乱用であり、学問の自由を侵害しかねないとの批判が強まった。菅首相は拒否の理由などは明らかにせず、「総合的、俯瞰的判断」といった説明に終始した。菅首相は「時がたてば国民の関心は薄れるだろう」(首相周辺)と、この問題を軽視しているようだが、民主主義の根幹にかかわるテーマであり、説明不足のまま任命拒否が続く限り、首相への不信感は消えないだろう。

 菅首相が理念を打ち出せないでいる弊害は外交・安全保障でも表面化した。安倍前首相は、退陣間際に談話を発表し、敵基地攻撃能力の保有を念頭に「今年末までにあるべき方策を示し、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していく」と述べた。北朝鮮や中国のミサイル攻撃力に対抗するため、日本独自の敵基地打撃力を整備する必要性を訴えたものだ。

 これに対して菅首相は事実上、判断の先送りを決めた。十分な議論のないまま敵基地攻撃能力を容認することには、与野党に異論があるが、菅首相は賛否を明確にすることなく結論を見送った。イージス・アショアに代わるミサイル防衛のあり方、さらには日本の外交・安全保障の全体像という枠組みを示さないままの判断先送りは、菅首相の力量不足をさらけ出した。

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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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