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eスポーツにおける「ロボ・ドーピング」問題

フェアプレイの精神が保障されないまま推進してもよいのか

塩原俊彦 高知大学准教授

 最初に、ややタイトルとはかけ離れた話から紹介したい。

 2020年10月19日、英国政府は「英国、オリンピック・パラリンピック競技大会へのロシアのサイバー攻撃を暴露」という内容を公表した。BBCの日本語版はこれを「東京五輪の妨害狙い、ロシアがサイバー攻撃 英政府が発表」と伝えている。しかし、政府発表では、その冒頭に、「ロシアの軍事諜報サービス、GRUは、今夏に東京で開催される予定の2020年オリンピック・パラリンピックで、その延期になる前に、政府関係者や組織に対するサイバー偵察を行っていた、と英国は本日明らかにした」と書かれているにすぎない。

「サイバー攻撃」というNHKの「虚報」

拡大平昌五輪開会式=2018年2月9日

 発表には、GRUが2018年冬季オリンピック・パラリンピック競技大会(韓国・平昌)にサイバー攻撃を行った話も出てくる。それは、「サイバー攻撃」であったが、東京については「サイバー偵察」であったことに注意してほしい。つまり、東京についてはそう大騒ぎする話ではないのだが、BBCの報道はいわば「盛っている」。

 なお、政府発表やBBCがGRUと伝えているのは、「ロシア連邦軍参謀本部諜報総局」だが、いまは存在せず、現在は「参謀本部総局」(GU)という名称になっている(ノーヴァヤガゼータ2020年10月23日付)。2018年11年2日にプーチンが名称変更をGRUに戻すことを検討するように示唆したとインターファックスが伝えている。それによれば、GRUはソ連軍最終分離国際条約の締結された1992年に形成されたが、2010年にソ連軍参謀本部総局と呼ばれるようになったのだという。

 プーチンは「諜報」とか「偵察」を意味する言葉の形容詞(разведывательное)が消えたことを嘆き、その言葉を復活しなければならないと発言したにもかかわらず、どうやら現在もGUと呼ばれたままらしい。ゆえに、英国政府の発表自体に間違いがあることになる(筆者の著作のなかにも、この点について必ずしも明確でないものがあることを考慮すると、大いに反省すべき誤りということになる)。

 日本のNHKは、「イギリス政府はロシアの情報機関が、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの関係者に対しサイバー攻撃を行っていたと発表しました」と報道している。もうこうなると、まったく「不正確な報道」すなわち「虚報」、「誤報」であることがわかるだろう。英政府は東京五輪に対して「サイバー攻撃を行っていた」などとはそもそも発表していないのだから。

 「攻撃」と「偵察」との違いに十分に配慮しながら、実際、何が行われていたかを報道するのが報道機関の使命だろう。にもかかわらず、NHKも「虚報」を垂れ流している。国民からカネを徴収しながら、この程度の報道しかできず、存在しないGRUを英国政府といっしょになって存在するかのように出鱈目な報道をしているのがいまのNHKなのだ。

ドーピング制裁への報復としてのサイバー攻撃・偵察

 ロシアのGUによる平昌五輪へのサイバー攻撃、東京五輪へのサイバー偵察の背景には、そのときどきで課されたロシア政府によるドーピング(禁止薬物使用)への制裁に対するロシア政府の報復という側面がある。

 最初にロシア政府ぐるみのドーピングが問題になったのは、2012年のロンドンオリンピックでロシアによるドーピング疑惑が2014年12月に明らかになったことにはじまる。世界反ドーピング機関(WADA)は2014年のソチ冬季五輪でのドーピング問題について調査を実施、その報告書を受けて、国際オリンピック委員会(IOC)はロシアが2011年以降に1000人以上の競技者が関与した国家ぐるみのドーピングを行ってきたとして、2018年のピョンチャン五輪からロシアを締め出した。この措置に対する報復がサイバー攻撃につながったとみられている。

 2020年の東京五輪と2022年の北京五輪やカタール・ワールドカップへのロシアの参加禁止は、2019年12月、WADAは4年間の主要なスポーツイベントへのロシアの参加を禁止した措置に基づいている。この腹いせがサイバー偵察につながったとみられる。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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