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大統領選で敗北確定、だが今後も続くトランプ政治の「長い影」

アメリカは多様で統合された国であり続けられるのか?

三浦俊章 朝日新聞編集委員

 アメリカ大統領選は12月14日、次期大統領を正式に選出する大統領選挙人による投票が全米各州で行われ、民主党のバイデン候補の勝利、現職のトランプ大統領の敗北が確定した。

 すでに11月3日の投票の4日後には主要メディアがバイデン氏の当選確実を報道していたのだが、その後もトランプ陣営は「選挙で不正があった」と訴え続け、敗北宣言を拒否してきた。だが具体的な証拠は一切なく、12月11日には連邦最高裁が激戦州の投票結果の無効を求めるテキサス州などの提訴を却下し、法廷闘争も行き詰っていた。したがって、今回の大統領選挙人の投票は本来、こうした選挙をめぐる争いに終止符を打つものだが、トランプ陣営は一向に負けを認めようとしない構えだ。

 また、共和党の支持者の間では、過半数がいまだにトランプ氏が勝利者だと陰謀理論を信じている。バイデン氏の大統領就任は来年1月20日だが、ホワイトハウスを去ってなお、トランプ政治の長い影がアメリカに残るのは確実だろう。

支持者の手を強く握り,自分のほうに引っ張るトランプ大統領。2018年11月20日、ホワイトハウスで、ランハム裕子撮影支持者の手を強く握り,自分のほうに引っ張るトランプ大統領。2018年11月20日、ホワイトハウスで、ランハム裕子撮影

トランプ政権は「歴史の逸脱」か?

 アメリカには「ワン・ターム・プレジデント」(1期だけの大統領)という言葉がある。合衆国憲法の規定で、「選出は2回を限度」とされる大統領職は、2期8年を務めてこそ一人前であり、特に現職が再選に敗れて1期で終われば、落第という烙印を押されるに等しい。この100年を振り返っても、大恐慌期のフーバー、第2次世界大戦後はカーター、ブッシュ(父)の計3人しかいないし、いずれもアメリカ史にレガシー(遺産)を残した大統領とは評価されていない。「負け犬」と呼ばれることは最も嫌ってきたビジネス界出身のトランプ大統領が、敗北を認めない心理的な理由はそのあたりにある。

 リベラル派の間には、トランプ氏が「1期だけの大統領」となることが確定したため、アメリカ史の大きな流れには影響を与えない「逸脱現象」に過ぎないという見方もある。初の黒人大統領だったオバマ氏が進めた多様化・多文化の流れが歴史の潮流であり、トランプ現象は、白人保守層による一時的な反動に過ぎないという考えだ。オバマ政権の副大統領だったバイデン氏がホワイトハウスを取り戻したことも、そういう見方を強化している。

 しかし、そのような楽観論は、今回の選挙結果を読み誤っているのではないか。確かに大統領選はバイデン氏が制したが、議会選では共和党が善戦した。アメリカ国民が共和党の政治を拒否したとは言えないからだ。

起きなかったブルー・ウェイブ

 民主党は今回の選挙で「ブルー・ウェイブ」を期待していた。ブルーは民主党のシンボル・カラーである。つまり、民主党支持が巨大な波となって、同党が大統領選と議会選の双方で大勝利を得るという期待だった。

 10月から11月3日の投票直前まで、様々な世論調査が、民主党のバイデン候補の大きなリードを伝えていた。全米レベルでも、9ポイント、中には10ポイントの差をトランプ氏につけていた。激戦州もほとんどで優位を保っていた。民主党関係者の間では「ランドスライド(地滑り的勝利)」という声がささやかれていた。

 期待はふくらんだ。獲得できる大統領選挙人(全538人)は350人以上、いやひょっとしたら400人台に乗るかもしれない。上院の多数派を取り戻すのも確実だ。前回2018年の中間選挙で多数派となった下院でも、15議席か20議席くらい上積みが期待できるだろう……。

 だが、それはあまりにも甘い見通しだった。

 確かに大統領選はバイデン氏が勝った。306対232という選挙人数の差、それから一般投票の700万という差は小さくない。

 だが、議会選は民主党にとっては大きな失望だった。上院は、ジョージア州の2議席が1月の決選投票に回ったのでまだ確定しないが、現時点では1議席取り戻しただけで共和50、民主48である。もっとショッキングだったが、楽勝と思われた下院で、共和党が10議席取り戻し、222対211と差を詰められたことだった。

 共和党の幹部、議員らからすれば、これは、共和党の政策が間違っていたわけではないという自信になる。おそらく次のような思いが、彼らに胸に去来しているのではないか。

 トランプ大統領という、精神的に不安定な品のない指導者を担いだのが過ちだった。有能な、賢く振る舞う指導者ならば、もっとうまくやれるだろう。トランプ政権の方向性は間違っていないのだ、と。

 移民を攻撃し、多様な社会を認めず、「法と秩序」を訴える。既存秩序に挑む中国を声高に非難はするが、肝心の国際秩序には無頓着。旧来の同盟を軽視してもアメリカ第一主義を貫く。こうしたトランプ大統領が掲げた政策は今後も有権者にアピールする、と共和党が考えても不思議ではない。

 トランプ大統領は2024年の大統領選に再出馬

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