平常時なら支持されたはず目玉政策を一時的に止めてでも国民のコロナ不安の解消を
2020年12月17日
菅義偉内閣の支持率が急激に下がっています。その勢いは歴代内閣と比べても厳しいものです。
メディア各社によって世論調査の手法が違うこともあり、数字はそれぞれ異なりますが、たとえば毎日新聞の調査では政権発足直後の「支持率64%、不支持率27%」(9月調査)が、いまや「支持率40%、不支持率49%」(12月調査)と不支持率が支持率を上回り、共同通信の調査でも、発足当初の「支持率66.4%、不支持率16.2%」(9月調査)が現在は「支持率50.3%、不支持率32.8%」(12月調査)と急降下と言わざるを得ない下がりっぷりです。
歴代の内閣と比較しても、比較的高支持率でスタートした菅内閣でしたが、発足3ヶ月での急降下は民主党の鳩山由紀夫政権以来でもあり、国民の支持や期待が文字どおり急速に萎(しぼ)んでいることを表しています。
8月末、唐突に退陣を表明した安倍晋三政権にかわった菅内閣は当初、来年秋まで間違いなくある衆院選をにらんだピンチヒッターと思われました。しかし、「仕事をしたい、働きたい」という首相の考えや組閣の布陣から、選挙管理内閣ではなく本格政権を視野に入れているのではとも目されるようになり、10月中旬までは来秋の自民党総裁選を経て、長期政権になるとの声も少なくありませんでした。
ところが、その後、支持率が低下。ここにきて、低落ぶりが著しくなったことで、当初の想定であっただろう「支持率をできる限り高止まりさせて衆院解散・総選挙に持ち込む」というシナリオは、現時点では絵空事になってしまったというべきでしょう。
筆者は、菅政権の基本的な政策や方針が、後段で触れるような改善を見せない限り、年明けもこのままの勢いで支持率が低下し、通常国会で予算を通過させる3月には30%台にまで落ち込むだろうと見ています。マスメディアの報道もさることながら、政権トップの首相のメッセージの弱さ、“近視眼的”政策にこだわりを持つやり方では、コロナ禍で国民の支持を得ることは難しいと考えるからです。
菅内閣はそれほどまでに評価されない政権なのでしょうか。筆者はちょっと違うと感じています。結論から言うと、政権担当能力も、政策実現能力もあるが、空気の読み違いが問題だと思います。
菅内閣は、当初から国民生活に直結するような政策を「スピーディー」に実現することにこだわりを持ち続けていました。閣僚の就任会見やその後の定例記者会見でも、行政改革や各種の新政策の実現について、「スピーディー」に行うよう菅総理から厳しい指示が出ている、といった発言が相次いでいることがその証左です。
実際、菅総理の肝いりともいえる携帯電話料金の引き下げは、NTTドコモによる新プランの登場が嚆矢(こうし)となり、今後他社も追随する動きとなることで、欧米諸国と遜色ない料金になる可能性が高まってきました。2050年の「カーボンニュートラル」実現に向けた2兆円の基金創設は、我が国のエネルギー問題に政府が本腰を入れ始めたことを示していますし、デジタル庁創設はマイナンバーカードの普及、健康保険証や運転免許証との一体化など実生活の利便性を高める未来型の政策実現と合わせて評価する声が大きいです。
とはいえ、一方で国民が今、大きな関心を寄せるのは、コロナ禍において生活そのものがどうなるかです。新型コロナ感染拡大をどのように収束するのか、その間の経済対策をどうするのか、といった困難な課題を安倍政権から引き継いだ菅内閣ですが、これまでのところ、「Go To トラベル」の一部地域での先行開始、全国展開、そして一部地域での自粛や停止、全国的な一時停止、という流れに政府の迷走ぶりが如実に表れるなど、医療崩壊が叫ばれるなかで、政府が抜本的な対策を打っている印象は乏しいのが実態です。
これだと、「新型コロナ」という国民の最大関心事に対し、政権として「大きな答え」を出せないため、コロナとはあまり関係のない一般的な政策で実績を積み重ね、有権者の信頼をつなぎ止めようという風に見えてしまいます。
まとめます。国民生活に直結する政策を矢継ぎ早に打ち出したこと、それが河野太郎担当大臣をはじめとする行政改革チームやデジタル化を推進する与党議員の強力な政策実現力によってもたらされたという点において、菅政権が政権担当能力や政策実現能力を持っていることは間違いありません。しかしながら、国民が今、真摯に求めているもの、政府に対して期待していることとは違うことをアピールされても、国民には「政策のミスマッチ」と見えてしまう。
その結果が、内閣支持率の低下だと筆者は考えています。
では、菅内閣の支持率はどうすれば上がるのでしょうか?
支持率が、新型コロナウイルス感染状況に大きく左右されるのは明らかです。現状、いわゆる「第3波」の不安を国民は味わっているわけで、この状況から逃れられるときが、支持率低下の反転させるタイミングと言えるでしょう。
「第1波」、「第2波」と異なり、ワクチンという武器を手に入れることが視野に入っている今、政府与党では「ワクチン接種までどう持ちこたえるか」という視座に立っているはずです。ただ、「第3波」は「第1波」、「第2波」と異なり、いつピークを迎えるのか、見通せない状況にあります。医療崩壊や再度の緊急事態宣言もありうるなか、真正面からコロナに向かう必要があります。
言うまでもなく、政府与党をはじめ多くの関係者がコロナに対して真剣に取り組んでいます。他方、エビデンスに基づく分科会提言としての「Go To 中止」と、「1日の感染者数が3000人に達したから中止」という菅首相の決定とのズレや、回数の少ない記者会見や原稿の“棒読み”、ニコニコ生放送での「ガースー」発言などといった、情報発信の不足や空気の読み違えは、確実に国民の期待度を下げています。
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