新型コロナ禍の前から危機は進行していた
コロナの先にある危機(1)日本経済・産業の四半世紀を振り返ってみる
齋藤 健 自民党衆議院議員・元農水大臣
円安なのに輸出量が増えない
安倍晋三前政権のもと、アベノミクスが一定の成果を上げたことは言うまでもない。だが、その一方で日本の産業の行く末を深く考えさせることが幾つもあった。いや、ある種の衝撃と言っても言い過ぎではない。
まずは円安と輸出入の関係だ。
野田佳彦総理の退任時、円ドルレートは1ドル79円だった。それが、安倍政権誕生後のおよそ半年後に行われた参議院議員選挙の翌日には、1ドル100円まで一気に円安が進んだ。ところが、輸出額は膨らんだものの、輸出量は増えなかった。えっ、なぜ?
通常は円安が進めば、日本製品の競争力が高まり、輸出量は増えるはずだ。わが国のグローバル企業が生産拠点を国際的に展開しているため、為替レートへの反応が小さくなったのは確かだ。が、それでもなお、この事態はあんまりではないか。
価格が安くなっても、買いたくなるような日本製品がないということなのか。それとも、これだけ急激に円安が進んでも、よし、売りまくってやろうというガッツがないのか。
金融緩和しても投資は増えず
企業の投資意欲の乏しさも不可思議だった。
アベノミクスの3本の矢のうちの一本は、異次元の金融緩和であった。にもかかわらず、マイナス金利の継続という究極の金融緩和を断行しても、企業がお金を借りて投資をしようという意欲は高まらなかった。マネーは金融機関に滞留したままだったのだ。
新しいことに挑戦しようと思えば、これほどチャンスはないのに、なぜなのか?
そういえば、資本主義のダイナモであるアニマルスピリッツという言葉も、わが国ではすっかり聞かれなくなった。振り返ればこの四半世紀の間、「失われた○○年」という言い方が更新し続けられるばかりで、今もその呪縛から脱していない。かなり深刻な事態と言えよう。
私はその間、23年間経済産業省に勤務し、産業政策に直接、間接に関わってきた。官を辞して国政の世界に進んでも、重大な関心をもってわが国の産業社会を凝視してきた。それだけに、日本経済への危機感は強い。
今回の連載「コロナの先にある危機」では、3回にわたって日本経済の現況を分析、課題をあぶり出し、危機を乗り越えるための私なりの提案をしていきたい。日本の企業は危機を乗り越えられると信じており、その意味で、連載は彼らへの心からのエールだと思っている。初回では、この四半世紀ほどの日本経済・産業の姿を簡単に振り返ってみたい。

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