2021年の外交構想—包括的多層的機能主義(CMF)のすすめ
本来の政治主導体制の確立を
田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官
日本の統治体制が「官僚主導」体制から「政治主導」へと変化したのは民主主義の下での当然の帰結ではあった。政治主導の本来の考え方は、官僚の専門性に支えられて政治家が課題設定をし、政策判断をするという図式のはずだ。
ところが近年、人事面での首相官邸の支配力が強くなり、官僚が政治に忖度する結果、官僚が専門性を発揮して創造的な役割を果たす場面が少なくなっている。官邸の指示を待つ外交は国内政治的利益を優先する結果、未来を切り開いていくような創造的外交が出来にくい。
外交には相手がいる以上、100%日本の利益にかなうという外交はなく、日本も一定の譲歩をして合意を作らなければならないが、譲歩をするくらいなら現状維持という力が政治力学上は働きがちだ。
そして外交で活路を開くためには必ずリスクが伴うが、外交の最前線に立つ官僚は政治家の顔を思い浮かべリスクを踏むことに異常に臆病となる。結果的にはリスクをとらない現状維持型の外交となり、往々にして状況に対応していく事に徹し、時にアメリカの外圧依存型の外交となる。
日本の政治には「アメリカに言われればしかたがない」という力が働くので、日本が相当な持ち出しをしなければならない時でも「長いものに巻かれろ」的な心理が働く。

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前内閣では安倍首相のトランプ大統領との親密な関係もあり、首脳主導の外交が際立った。ただ、例えばロシアとの平和条約や北朝鮮との拉致問題を優先課題として政権発足時より自ら取り組んだが、緻密な戦略と実務的な交渉が十分であったとは見受けられず、結果的には成果を出せないまま、政治家の国内に向けた決意表明だけに終わってしまった。
官僚が専門性を活用し、もう少しダイナミックに活動できる余地を増やすべきではないか。