メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

新型コロナ後の世界を救うのは女性~忍び寄る金融破綻リスクの中で

世界の社会経済システムを考え直す「グレート・リセット」を女性の視点から注視する

円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長

 新型コロナのパンデミックで世界の風景が一変した2020年ですが、いずれこのコロナ禍も終わります。そのとき、「コロナ後」の新たな世界に進むか、「コロナ前」のこれまでの世界に戻るか、今まさにその分岐点にあります。

 世界的な政治家や経済人が一堂に会し、世界が直面する問題について話し合う「ダボス会議」(2021年5月にシンガポールで開催予定)の来年のテーマは、世界の社会経済システムを考え直す「グレート・リセット」。より公平で、自然を重視し、世代間の責任、グローバルな市民としての立場を意識するよう、現状を見直すことを目指すといいます。

 私たち女性は、この「グレート・リセット」が、人々の命と暮らしを守り、持続可能な地球を子どもたちに残せるものになるよう、ジェンダー平等の視点からしっかりと注視していきたい。2021年をそのための出発点にしたいと思います。

 今回から始まる連載「『グレート・リセット』と女性の時代」では、そうした問題意識から、女性にからむ様々な問題を取り上げていきます。まずは、コロナ禍のもと世界で活躍する女性リーダーから考えます。

コロナ後に忍び寄る「不穏な情勢」

ETAJOE/shutterstock.com

 コロナで明け、コロナで暮れた2020年。だれもが一日も早い終息を願いつつ、そんな簡単に思い通りにはいきません。来夏の東京オリンピックだって、開催は無理じゃないかと多くの人が思っているのも事実です。

 さらに深刻なのは、コロナの後に何が起きるかです。忍び寄る「不穏な情勢」に、心ある人たちは慄(おのの)いていると言っても過言ではありません。

 不穏な情勢とは何か。今、人々の命をコロナから守るために、そしてコロナによって失われた経済の損失を回復させるために、世界中で巨額の資金が使われています。こうした何の担保もなく、湯水のごとく刷られ続けている巨万の紙幣の後始末は、一体誰がするのでしょうか。

初の女性財務長官、女性副大統領が誕生するアメリカ

 来春、大統領が共和党のトランプから民主党のバイデンにかわるアメリカ。バイデン新政権で財務長官になるのは、女性初のFRB(連邦準備制度理事会)議長だったジャネット・イエレンです。コロナ後の厳しいアメリカの、いえ、世界の金融経済の舵取りを、彼女が担うことになります。

 4年前、トランプに敗れたヒラリー・クリントンは、女性にはいまだにガラスの天井があると言いました。今回やっと、カマラ・ハリスが初の女性副大統領になります。

 男女平等が日本よりずっと進んでいるかのように錯覚しがちなアメリカですが、副大統領も財務長官も1776年の建国以来、初めて女性が就任します。

 女性がアメリカの全州で参政権を得たのは1920年ですが、その4年前の1916年にはジャネット・ランキンが女性として初めて、連邦下院議員に選出されました。それから1世紀を経て、ようやく副大統領や財務長官になる女性が出てきたわけです。

 戦後、1946年に39人の女性の衆院議員が誕生した我が国の場合、その伝に倣えば、女性の総理や財務大臣の誕生はまだ30年も待たなければならないのでしょうか。いや、それでは遅すぎる。この“超高速”の時代、それはもっと早く来ると思いたいものです。

カマラ・ハリス氏  NumenaStudios/ NumenaStudios.com

ヨーロッパを救うべく闘う3人の女性

 アメリカではイエレンがこれから活躍するでしょうが、ヨーロッパでは既に3人の女性が大活躍しています。メルケル、ライエン、ラガルドです。

 ドイツのメルケル首相はよく知られています。ライエンとは元ドイツ国防相で、現在EU首相のフォン・デア・ライエンのこと。彼女はコロナ対策に89兆円の復興基金を設けました。そして、メルケルと共にコロナで最も経済が傷んだイタリアに21兆円、スペインに16兆円の救急資金を供給します。

 メルケル政権は、財政規律を重視して、なるべく財政赤字を出さないように厳しい財政政策をとっていたのですが、ライエンと共同歩調をとりました。

 ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁も「必要なことは何でもやる」と宣言、約87兆円の量的緩和を4月に決めましたが、状況に応じてさらに拡大するとしています。彼女はフランス人です。女性3人がコロナ禍のヨーロッパを救うために、闘っているのです。

ドイツのメルケル首相(左)とフォンデアライエン欧州委員長=2020年2月20日、ブリュッセル、欧州連合(EU)提供

金融破綻の懸念と予想される最悪の事態

 大規模な量的金融緩和を行なっているのは、ヨーロッパだけではありません。日本やアメリカの中央銀行も、際限なく大規模な量的金融緩和を行なっています。いずれも政府から国債等を購入するのですが、その資金は印刷機を回してお札を刷ればいいので、こんなに簡単なことはありません。

 結果、どうなるのか。それぞれの国の中央銀行には莫大な資産、つまりただの紙切れになるかもしれない国債等が積み上がります。その額たるや、アメリカのFRBは1050兆円、EUのECBが700兆円、日銀が650兆円にのぼっています。

 これらは民間の経済活動から生まれたお金ではありません。そう考えると、末恐ろしくなります。近い将来、それも4〜5年のうちに、世界中が金融破綻(はたん)するのではないかという予測が出ているのも、決して絵空事ではありません。

 その時、戦争で処理しようと考えるトップリーダーがいるかもしれません。もしくはデノミしか解決策はないという人もいるでしょう。デノミとは、あなたの1万円が、千円かいえ、百円、10円の価値しか持たなくなる政策です。どちらも、市井で真面目に生きている私たちにとって選びたくないものです。

 アメリカのイエレン、ヨーロッパの3人の女性にはなんとしても、どちらも招かないですむ金融政策を実行してほしいと思います。コロナ禍から命を守り、経済活動と人々の暮らしを支えるために、各国の政府がじゃぶじゃぶに出された資金をどう使うか、人々にどう再配分するか、それが問題です。

「幸福予算」を国家予算に組み入れた女性首相

記者会見にのぞむニュージーランドのアーダーン首相=2020年5月11日、ウェリントン、AP

 世界で初めて「幸福予算」なるものを国家予算の枠組みに入れたのは、ニュージーランドのアーダーン首相です。学者の研究を根拠に、DV、子どもの貧困、精神疾患の三つに幸福予算として多額の予算を投入すると言います。彼女は、コロナ禍に苦しむ国民に寄り添い、熱い支持を受けて、先日再選をはたした、国民に親しまれているリーダーです。

 日本で、幸福予算をつけるなら、子どもの貧困、児童虐待、教育格差でしょうか。幸福を阻害するものが社会にあまりに多く、どれを選ぶのか困るのが実情ですが、未来のある子どもたちを対象にすることは、この国の幸福度を上げることにつながると思うのです。

 日本は、名目GDPでは世界第3位といっても、一人あたりのGDPは世界26位。一方、ニュージーランドは名目GDPは53位ですが、一人あたりのそれは24位。日本と比べて、個人を重視した施策に力を入れている様子が浮かびます。

 アーダーン首相のように、各国のリーダーが人々の幸福を考えていればいいのですが、なかなかそうもいきません。我が国でも菅義偉首相は「国民のために働く」と言い、その気持ちは決して嘘ではないのでしょうが、個々の施策を見る限り、やっていることがなんともちぐはぐです。

国土強靱化予算の15兆円を幸福予算に回せば……

 経済への配慮は分かりますが、「Go  To トラベル」を延長して、感染を拡大させていることが、国民の幸福につながるのでしょうか(内閣支持率低下を受けて、政府は慌ててしばらく休止にしましたが……)。ケータイ電話の料金値下げも、若者の支持をつかみたいだけに見えてなりません。

 15兆円の国土強靭化予算も疑問です。もちろん古くなったインフラの整備は命にかかわるので必要です。しかし、予算の8割近くが新設のインフラにまわると知ると、話は違う。効率やスピードばかり追い求めて、人々が、個人が、家族が、はたして幸福になったでしょうか。戦後、平成と続いてきた「成長神話」は、もう終わらせるべきです。リニアだって不要です。

 この15兆円を幸福予算に回す。そんな決断ができれば、この国の子どもたちはどれだけ幸福になるでしょうか。子どもを育てたいと思う若い人たちがどれだけ増えるでしょうか。子どもや子育て関する政策を進める兵庫県明石市の泉房穂市長がやっていることを見れば、幸福予算の重要性は明々白々です。

金融が世界の平和を左右する

 新型コロナが世界に拡大するなか、紛争地や最貧国では、女性や子どもたちがまともな医療を受けられないどころか、手を洗う水さえないという危機的状況が生じています。国連難民高等弁務官や国際協力機構(JICA)理事長をつとめた故緒方貞子さんのように、我が国にも人道の面で世界を駆け巡り、人々のために働いてきた女性がいます。国連等では今も、多くの日本女性が活躍しています。

 しかし、そうした活動を支えるお金の配分を決めるのも、コロナ後に起きるかもしれない世界的な金融破綻を防ぐのも、いわゆる金融の世界にいる一部の人間なのです。その権限を握っているのは、これまでずっと男たちでした。

 イラク戦争でサダム・フセインが殺されました。あの戦争は当初、イラクが大量破壊兵器を持っているからと言われましたが、それは口実であったことが後に明らかになりました。石油のせいとも言われましたが、実はそれも真実ではありません。

 結局のところ、通貨、つまり、フセインが石油取引をドルではなくユーロでやろうとしたことが、ブッシュとアメリカの逆鱗に触れたからでした。金との兌換(だかん)がなくなった後も、世界一の武力を背景にして、世界通貨として君臨しているドルを揺るがすことは許さないという、アメリカの意思表示だったのです。

 すなわち、通貨や金融は、戦争や平和を左右するのです。もちろん外交は大事ですが、通貨や金融の役割がわかっていないと、人々の幸福までも脅かすことになります。

SergeyBitos/shutterstock.com

金融を理解できる女性リーダーが必要

 それだけ重要な金融の世界の権限を握っているのが、男性だけでいいはずがありません。男性とは異なる視線でその仕組みを理解し、人々の人権や子どもたちの問題、平和にまで目配りができる女性リーダーが、今こそ必要なときはない。そして本稿で触れてきたように、その兆しはコロナ禍の今、確かに生まれています。言うまでもなく、日本でもそういう女性リーダーをぜひとも誕生させなければいけません。

 そうした女性たちが、コロナ後に危殆(きたい)に瀕(ひん)するかもしれない世界を救う「キーマン」になると、私は確信しています。

 私たちの子どもたちのためにも、未来のためにも、女性は立ち上がらなければならない。コロナ後をにらんだ「グレート・リセット」をその一歩にしたいのです。