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コロナ禍における日仏首脳の会食にみる文化的・政治的差異

新型コロナ感染のマクロン仏大統領。陽性判明前夜の与党幹部らとの会食が判明し……

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

 フランスのマクロン大統領が新型コロナに感染した。17日の陽性判明の前夜に与党幹部ら10人とエリゼ宮で会食したことも判明し、「不注意」との批判を浴びている。菅義偉首相の“ステーキ会食”は外国メディアも取り上げているが、両者のコロナ禍最中での会食からは日本とフランスの文化の相違も透けてみえる。

 マクロン大統領は、「多大な疲労感、頭痛、咳」の「初期症状」(エリゼ宮=仏大統領府)が出た17日午前に検査をして陽性が判明した。以来、ヴェルサイユ宮殿に近いパリ郊外の大統領府の別邸で、軍医ら医療団に囲まれて7日間の隔離中(フランスの隔離期間は14日間ではなく7日間)だが、執務はテレワークで続行中だ。

マクロン仏大統領 vasilis asvestas/shutterstock.com

過密スケジュールのどこで感染したのか?

 フランスのメディアの目下の関心事は「どこで感染したか」だ。陽性判明直前の大統領のスケジュールは過密状態。人との接触が頻繁なうえ、感染率が高い会食も多い。

 12月10、11日はブリュッセルで欧州連合(EU)首脳会議に出席、ベルギーのデクロー首相ら多数の首脳と接触した。13日夜はエリゼ宮で欧州委員会のフォンデアライエン委員長と会食。14日正午にはパリで2023年開催のラグビーW杯の抽選会に出席。その後、エリゼ宮で開かれたOECD(本部パリ)創設60周年を祝う昼食会でグリア事務総長やEUのミシェル常設議長、スペインのサンチェス首相と会食。さらにパリ市内でパリ協定(150カ国メンバー参加)の会合に出席した。

 15日にはエリゼ宮で国家安全防衛限定閣議を主宰。昼はエリゼ宮でフェラン国民議会議長や各党議員団長と会食。その後、カステックス首相と会合。16日は関係閣僚らと対コロナ会議後、閣議を主宰。昼は来年1月からEU議長国となるポルトガルのコスタ首相と会食。午後8時ごろから、冒頭で書いた与党の重要メンバーとの政策検討を兼ねての夕食会に夜中過ぎまで参加している。この夕食会は大統領の正規の日程表には記載されていなかったが、週刊誌「ルポワン」がすっぱ抜いた。

 以上の会合での濃厚接触者のカステック仏首相、サンチェス・スペイン首相、コスタ・ポルトガル首相やミッチェル議長は隔離した。ちなみに夫人のブリジット・マクロンは陰性で隔離されていない。

「誰でもかかる」「消毒ジェルは常にそばに」

 テレビニュースを見ると、マクロンはこれらの会合でマスクは着けているが、出席者とは握手こそしていないが、肩を叩き合ったりの濃厚接触を繰り返している。マクロンのこうした態度からは、「まさか、自分が感染する」とは思っていなかったことは明瞭だ。

 隔離後のネット会見では、「誰でもかかる」とコロナの感染度の高さを指摘するとともに、「(手洗い用の)消毒ジェルを常にそばに置いていた」などと十全な対策を行っていたことを強調した。

 極左政党「服従しないフランス」のメランション党首から、「誰でもがコロナに感染するお手本だ」と皮肉られたマクロンは、12月21日に43歳になった。フランスでは40代はまだ「若者」だ。

 フランスの若者は「コロナには罹(かか)らない、罹っても軽症」と、会費制の秘密パーティーなどを開いている。実際、50ユーロ(1ユーロ=約125円)の会費で約500人が倉庫などに集まった飲食を伴うディスコ式パーティーがバレて、主催者に5万ユーロの罰金が科せられた例もある。

 2017年に続き、2023年の大統領選でマクロンのライバルになると見られる極右政党「国民連合」のルペン党首は、「後遺症がないことを祈る」と嫌味たっぷりの声明を発表した。新型コロナがインフルエンザと異なるのは、「記憶や味覚、臭覚の消失、息苦しさ」などの後遺症があることだ。

マクロン仏大統領  vasilis asvestas/shutterstock.com

「会食」自体への批判はなし

 メディア各社は16日の夕食会について、マクロンにすでに症状が出ていた可能性があるため、「不注意」と批判しているが、コロナ禍の最中に「私的会食」をエリゼ宮(大統領府)で開催したこと自体への批判はない。

 出席者の一人であるカスタネ―ル前内相(政権党の「共和国前進」党首)も、食卓では「社会的距離(1メートル)厳守」「マスク必着」を強調したが、会食開催に関しては言及も弁護もなしだ。

 日本人の間で「フランスでは胃と肝臓が丈夫でなければ、駐在員は務まらない」と言われるほど、フランスでは会食と仕事が密接に結びつく。菅首相のステーキ会食も、

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