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「国際問題」に発展しなかったコザ騒動

「国際問題に発展させ、沖縄人を人間として認めさせる」という青年の叫びは…

阿部 藹 琉球大学客員研究員

「沖縄どうしたらいいのか。沖縄人、人間じゃないか、馬鹿野郎」

 テレビでコザ騒動の特集が伝えられる時に、必ずと言っていいほど流れる音声がある。当時、ラジオ沖縄の記者だった玉保世英義さんが録音したもので、騒動を知ってコザに駆けつけた玉保世さんの元に20代の男性が駆け寄り、マイクを奪い取って訴えたという声だ。ちょうど今、琉球新報がコザ騒動特集ページで玉保世さんのインタビューを動画で掲載しているのでぜひご覧頂きたいと思う。

 興奮した声で、男性はこう叫ぶ。

沖縄どうしたらいいのか。沖縄人も人間じゃないか、馬鹿野郎。
この沖縄人の涙、わかるか! お前らは。
国際問題に発展させてね、沖縄人を人間として認めさせないといけない。

 コザ騒動から50年を期に流されるこの音声を幾度も耳にするにつれ、一つの問いが私の心を占めるようになった。

 なぜこれほどの規模の「暴動」とも呼ばれる事件が、この青年が言うような「国際問題」に発展しなかったのだろうか、という問いだ。

国際問題に発展しない「無国籍人」

 その問いを考えるためのヒントが、沖縄が憲法体制の埒外に置かれた過程を膨大な資料から明らかにした「沖縄 憲法なき戦後(古関彰一・豊下楢彦著 みすず書房)」にあった。

 そこにはコザ騒動を遡ることさらに15年前の1955年、沖縄の漁師34人がインドに漂流し、領海侵犯としてインド政府によって刑務所に留置された際、日本の領事からは「沖縄の島民なんというのは日本政府の力の及ばぬのだから」と放置され、一方で当時沖縄を統治していたアメリカの領事からは「沖縄は、アメリカ国民ではないのだ」と放置された事件が紹介されていた。

 自国民が漂流した先で領海侵犯として捕らえられれば、通常その政府は外交的保護権を行使してその自国民を保護しようとする。そしてもし相手国が正当な理由なく引き渡しを拒めば国際問題に発展しうる。国際問題は、自国民の保護や相反する利害などを巡って国家と国家が対立することで発生するものだ。

 しかしこの漁師漂流事件では、日本政府もアメリカ政府も沖縄の人を保護すべき自国民として取り扱わず、身柄を巡ってインド政府との国際問題に発展するどころか彼らは放置された。

 この事件からわかるのは、沖縄の人々が日本政府からもアメリカ政府からも保護すべき自国民とみなされず、実質的に「無国籍」の状態であったこと、そして、そのような人びとの叫びは国家間の「国際問題」に発展する術がなく、ただ空にかき消されるという現実だ。

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筆者

阿部 藹

阿部 藹(あべ あい) 琉球大学客員研究員

1978年生まれ。京都大学法学部卒業。2002年NHK入局。ディレクターとして大分放送局や国際放送局で番組制作を行う。夫の転勤を機に2013年にNHKを退局し、沖縄に転居。島ぐるみ会議国連部会のメンバーとして、2015年の翁長前知事の国連人権理事会での口頭声明の実現に尽力する。その後仲間と共に沖縄国際人権法研究会を立ち上げ、沖縄の諸問題を国際人権法の観点から分析し情報発信を行っている。2017年渡英。エセックス大学大学院にて国際人権法学修士課程を修了。

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