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国民投票と住民投票~直接民主制の威力と魅力(上)

「賛否拮抗案件は投票になじまない」は本当か?

今井 一 ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 「大阪市廃止・特別区設置」の是非を問う大阪市の住民投票(11月1日実施)は、大接戦の末に僅差で反対多数となったが、その翌日、テレビ朝日の人気番組「モーニングショー」で、同局所属のコメンテーター・玉川徹氏がこう発言した。

 「賛否の拮抗しているようなものを、住民投票にかけるってことはよくないってことだと僕は思います。やっぱりね、禍根を残すんですよ。僕は住民投票に沿うものっていうのは、住民の多くから湧き上がるように上がってきたその要望を政治が汲みとって決断する時に、やっぱりそれは市民の意見を一回聞いといたほうがいいねといって、賛成多数になって可決するようなものだけが、僕は住民投票にこそ合うものだと思います」

 一方、衆議院憲法審査会(11月19日)において、辻元清美議員はその大阪での住民投票に触れながら、賛否を訴える運動としてのテレビCMの規制に関する意見を述べたあと、国民投票についてこう発言した。

 「やはり国論を二分するような問題は国民投票になじまないんじゃないかという点、何人かの議員からも表明があったし、今、石破委員からも表明がありました。やはり、議会でのコンセンサスがとれたことを国民投票にかけないと、議会のコンセンサスがとれなかったから、最後、国民に決着させようということは、国民を戦わせることになってしまうんですね。これは非常に社会の分断を招くんじゃないかというように懸念をいたします」

衆院予算委で質問に立つ立憲民主党の辻元清美氏=2020年11月4日拡大衆院予算委で質問に立つ立憲民主党の辻元清美氏=2020年11月4日
玉川徹氏=村上宗一郎撮影拡大玉川徹氏=村上宗一郎撮影

 玉川、辻元両氏の発言はおおむね一致しており、要約するとこうなる。

 〈賛否が拮抗するもの、国論が二分するものは、住民投票や国民投票にかけないほうがいい。なぜなら、そういった賛否が拮抗する案件を主権者・国民が直接決着をつけるとなると、人々の間に禍根を残すし社会の分断を招くからだ。賛否が拮抗する案件の決定は議会に任せればよく、住民投票や国民投票は、行政や立法が主権者の多数意思を汲みとったものを追認する形式的なものであるべきだ〉

 住民投票・国民投票は、主権者である国民の最終決定権の行使を保障する制度なのだが、玉川、辻元両氏の理解はそうではなく「賛成多数になって可決するようなもの」や「議会でのコンセンサスがとれたこと」を主権者が半ば形式的に追認するものだとしている。

 この点について、法哲学者で東京大学名誉教授の井上達夫氏はこう指摘する。

 「『議会でコンセンサスをとれないことを国民投票にかけるな』などという辻元議員の主張はまったく倒錯している。そもそも議会でコンセンサスがとれるのはめったになく、多数決での決定が通常です。議会の多数派が多数決によって決めようと思えば決められるけれど、国民(住民)に甚大な影響を与える重大な問題は、議会の多数派だけで決定するのは民主的正統性を確保する上で問題だから、国民投票(住民投票)で有権者の審判を仰ぐことが要請されるわけです。辻元議員ら国民投票(住民投票)否定論者は、『議会多数派の専断政治』に反対するふりをしながら、結局それを容認している」

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筆者

今井 一

今井 一(いまい・はじめ) ジャーナリスト・[国民投票/住民投票]情報室事務局長

 1991年以降、ソ連、ロシア、スイス、フランス、イギリスなどで国民投票の取材を重ね、国内では新潟県巻町、名護市、徳島市など各地で実施された住民投票を精力的に取材。2006年~07年には、衆参各院の憲法調査特別委員会に参考人及び公述人として招致され、国民投票のあるべきルールについて陳述する。著書に『CZEŚĆ!(チェシチ)──うねるポーランドへ』(朝日新聞社)、『住民投票』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投票』(集英社)、『国民投票の総て』、『住民投票の総て』(ともに[国民投票/住民投票]情報室)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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