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危機的な状況下で国が国民を守るということ~コロナ禍のフランスの場合

「連帯主義」の伝統のもと、コロナ困窮者への国のサポートをさらに厚く

金塚彩乃 弁護士・フランス共和国弁護士

住居の確保について

 まず、冒頭の「サエさん」の例で取り上げられている住居の重要性について見てみよう。

 コロナ禍でホームレスを出さないように、さらにすでにホームレスの状況にある人に対して、どのような対応が考えられるだろうか。日本ではボランティアの人々の努力による支援はあるが、政府や行政から明示的・積極的な支援の姿勢を見ることはない。フランスではどうか?

「冬季休戦」の期間を延長

 フランスでは、既存の制度として「冬季休戦」がある。なんとも不思議な言葉であるが、これは民事執行法典という法律のL412-6条に定められた制度であり、家賃が払えなくなった人、あるいは不法占拠者らの命を守るため、冬の間は居住している部屋から追い出すことを法律上禁止するというものだ。

 具体的には、建物明渡しの強制執行が毎年11月1日から翌年3月末日まで禁止される。要は冬空のもと、人を道にたたき出すことは許さないという制度である。この時間的猶予の間に、次の居住先や収入を得る手段を確保することが期待される。

 コロナの拡大後、フランスはこの制度について、迅速かつ柔軟な対応をみせた。昨年3月23日に緊急事態宣言が発令された翌々日の25日、期限が迫っていた「冬季休戦」を5月末まで延長することを決定、さらに緊急事態宣言が終了する7月10日まで再延長したのである。

 これ以降に退去を強制される人に対しては、政府から各県知事に対し、可能な限り住居を提供するよう指示が出された。家主にとっては厳しい制度だが、家賃が払えなくなっても、先述した「サエさん」や「ヨシエさん」のようなコロナ禍で住むところを失う人は、制度上発生しないこととなる。

 現在は昨年11月1日から通常の「冬季休戦」が始まり、2021年3月31日まで続くことになるが、状況によっては延長される可能性がある。この結果、2020年は2019年に比べて強制的な明渡し額が激減、地域によっては前年の7~8割減となった。

 ちなみに「冬季休戦」の期間中は、水道光熱費の未払いがあってもサービスをストップしたり、契約を解除することは許されない。また、「冬季休戦」かどうかにかかわらず、一般的に困難な状況にある人たちが、水道光熱費や固定電話、インターネット料金を支払えない場合には、各地方自治体が未払い料金の一部負担をすることも予定されており、この援助申請をしている間は契約を打ち切ることは許されないと法律で決まっている(社会的行動と家族法典L115-3条)。

 すなわち、どのような状況にあっても、外部とのコミュニケーションや最低限の生活が守られる仕組みになっているのだ。

拡大Supavadee butradee/shutterstock.com

ホームレスのサポートを拡充

 ホームレス状態にある人たちのサポート体制の構築も早かった。

 フランスは人々のつながりを「連帯」と呼ぶ。厚生省の名称も正式には「健康と連帯の省」という。いかにして社会で共に暮らす人々が助け合うかという考え方で、日本で声高に主張される「自己責任」とか「自業自得」というような言葉は聞こえない。

 この「連帯」の理念のもと、「道で生活する人々を守る」を旗印に、政府は緊急事態宣言の前からホームレスの人々の支援を強化することとし、政府内に特別な委員会が立ち上げられた。そのための宿泊場所の確保は、緊急事態宣言発令の10日以上前に着手されている。緊急事態宣言が発令された2020年3月23日当日には、マクロン大統領がホームレス支援施設を訪れ、「最も弱い人たちのための社会的連帯」を呼びかけるとともに、支援者に対し感謝の念を伝えている。

 このような中、もともとフランスでは毎年冬にホームレスの人々のために多くの宿泊箇所を準備しているが、コロナ禍においてさらにその場所を拡充することとされた。政府はそのための費用として6500万ユーロ(約83億円※1ユーロを127円で換算。以下同じ。)を予算化、ホームレスの人々に提供する部屋としてホテルなどに17万8500か所を確保した。

 また、イル・ド・フランス地域圏においては、学校の閉鎖で使われなくなった高校の寮を使うことを決定し、9200カ所を確保した。これも含め、地方公共団体の努力は特筆に値する。

 ロックダウンの中、「自宅」で待機することのできないコロナに感染したホームレスの人々を集める拠点の確保も、赤十字社等との協働で行われている。

 ロックダウンで活動が難しくなったボランティア団体が担ってきた食事の提供も、行政が力を入れることになり、学校給食で提供するはずだった食糧があてられた。生活必需品についても、昨年4月1日以降、国からホームレスの人々に一日あたり7ユーロ(約1000円)の小切手がボランティア団体を通じて提供され、最低限の買い物を行うことが可能になった。

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筆者

金塚彩乃

金塚彩乃(かねづか・あやの) 弁護士・フランス共和国弁護士

弁護士(第二東京弁護士会)・フランス共和国弁護士(パリ弁護士会) 中学・高校をフランス・パリの現地校で過ごし、東京大学法学部卒業後、弁護士登録。再度、渡仏し、パリ第2大学法学部でビジネスローを学び、パリ弁護士会登録。日仏の資格を持つ数少ない弁護士として、フランスにかかわる企業法務全般及び訴訟案件を手掛ける。2013年より慶應義塾大学法科大学院でフランス公法(憲法)を教える。2013年、フランス国家功労賞シュバリエを叙勲。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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