西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
1983年生まれ。慶応義塾大学卒。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)、『マーケティング化する民主主義』(イースト新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
新旧の性質をもった総合的社会問題であるコロナ禍を読み解くと見えてくるもの
菅政権が発足して3カ月が過ぎた。新政権への期待感で支持率が底上げされがちなハネムーン期間が終わったことになる。報道各社の世論調査では、ここに来て内閣支持率は急落し、社によっては4割を切り、支持率と不支持率が接近するまでになった。
政治学の学説として、国家的、社会的な危機に際して、政権支持が高まるという「旗下集結効果」が知られているが、コロナ禍の日本では真逆にも見える動きがこの間、観察されている。
安倍政権末期において新型コロナウイルス感染症が発生し、初動の諸対応、緊急事態宣言の発出と解除が行われたが、内閣支持率は下降トレンドをたどった(一連の経緯は拙著『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』も参照)。菅政権でも短い期間ながら同様のイレギュラーな傾向を反復しているようにも見える。
コロナ禍と並行して、安倍政権終盤には政治スキャンダルが相次いだ。皮肉なことに政権継承を掲げた菅政権でも同様だ。
河井案里自民党参議院議員の公選法違反の有罪判決、大手鶏卵生産会社からの現金授受疑惑がある吉川貴盛元農相自民党衆議院議員の議員辞職、安倍前総理事務所のいわゆる「桜を見る会」疑惑に関連した前夜祭の費用の補槇疑惑での秘書の略式起訴など、古典的な政治とカネの問題が頻発している。
政府に対する不信と不満も日増しに強くなっている。また、厚労省の調査や精神保健福祉センターへの相談件数等を見ると、特に緊急事態宣言下などに不安も広がっている。
安倍政権のコロナ対策も必ずしも実態にそぐわず、メディアの論調も含めて根強く「後手」「小規模」の評価が示されるなど、総じて不満が強いものであったが、菅政権のコロナ対応についても否定的な評価が高まっている。
例えば、12月の朝日新聞社の世論調査によれば「Go To トラベル」の一時停止のタイミングは「遅すぎた」が79%だった 。NHKの12月の世論調査でもほぼ同様の傾向が示されている。政府のコロナ対応の評価は、10月世論調査では「大いに評価する」「ある程度評価する」があわせて54%、上旬に実施された11月調査では59.6%に上昇したが、12月に入って急落し40.5%になっている。「感染の不安」も「大いに感じる」「ある程度感じる」あわせて10月が78.5%、11月は79.3%だったが、12月には85.2%になった(注1)。
もちろんコロナ禍そのものも一向に収まる兆しは見られず、長期化に伴って過酷さを増している。一日あたりの感染者数などの重要指標はいまも更新を続け、医療関係者は医療崩壊の危機とその回避の要請、また外出自粛など社会活動を低下させる必要性を繰り返し訴えているが、政府の腰は重い。それどころか、総理をはじめ政治家の会食が相次いで報じられ、国民の怒りを買っている。
12月になって年末からの「Go To キャンペーン」一時停止をようやく決めた。感染拡大と、不安の拡大は表裏一体でありながら、しかし必ずしも「現実」と並行するのではなく、時にズレながら、時に呼応しながらいまも進行している。
(注1)NHK「選挙WEB 内閣支持率」