西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
1983年生まれ。慶応義塾大学卒。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)、『マーケティング化する民主主義』(イースト新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
新旧の性質をもった総合的社会問題であるコロナ禍を読み解くと見えてくるもの
そのうえで政権に直結する要因として一つ指摘できるのは、新型インフルエンザ等対策特別措置法が定める基本的対処方針が、5月25日以来更新されていないことである。特措法は、次のように基本的対処方針を定めている。
(基本的対処方針)
第十八条 政府対策本部は、政府行動計画に基づき、新型インフルエンザ等への基本的な対処の方針(以下「基本的対処方針」という。)を定めるものとする。
2 基本的対処方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 新型インフルエンザ等の発生の状況に関する事実
二 当該新型インフルエンザ等への対処に関する全般的な方針
三 新型インフルエンザ等対策の実施に関する重要事項
3 政府対策本部長は、基本的対処方針を定めたときは、直ちに、これを公示してその周知を図らなければならない。(強調は引用者による)
この基本的対処方針は、第1波の際には3月28日に定められ、その後、5月25日まで7回更新されて現在に至っている(注2)。
むろん筆者の専門ではないが、現在の状況はとても2020年春先の、いわゆる第1波と同じ状況にあるようには思えないのだが、そもそも政府は公式には第2波、第3波という呼び方をしていない。「大きな流行」と言うばかりであって、少なくとも公式には連続的な流行とみなしているようだ。
なお、国立感染症研究所は、中国・武漢経由のウイルスと、欧州からの帰国者、入国者由来のウイルスに由来する「大きなインパクト」があったとし、「5月下旬〜6月中旬の起点2つを捕捉できていれば、7-9月の感染ピークは無かったかも」「もう少し努力すれば、ゼロ作戦を達成できていた可能性あり」と述べている(注3)。
朝日新聞デジタル「コロナ第2波、2系統のウイルスから再拡大 感染研分析」2020年11月12日
基本的対処方針の更新が3月から5月までの頻度と、その後、止まっている現状はどのように理解すべきなのだろうか。5月の状況や対処と現状が同じだとするなら、当時の更新頻度を念頭に置くと「改めて、同じであり、対処方針も同じなのだ」ということが確認されてもよいはずだし、異なるのであれば、詳細な状況の説明や、本来、特措法が求めるような今後の「対処に関する全般的な方針」が語られてもよいはずである。
ところが既知の通り、何も語られていないのが現状だ。危機渦中での政権交代は対策に非連続性が生まれるのではないかと懸念されたわけだが、現状、少なくともこの「語られなさ」は連続している。
筆者は、政府筋に近い研究者から、基本的対処方針について、「誰もそんなものを気にしていない」という話を聞いたことがある。それは政府がアドホックな対応をしているということでもある。「大胆」で「前例がない」という言葉も前政権のコロナ対応からよく聞いたが、それは見方を変えると思いつきであり、また非計画的なものであるということでもある。
特措法は地方自治体が基本的対処方針に基づいて対処を行うことを求めている。本来は、文字通り国の対処方針を公にすることで、少なくとも政治の振る舞いに関する予見可能性改善に資するものになるはずだった。
もしこの間、政府が積極的に「基本的対処方針」を更新し、大局観と直近の対処を我々に語りかけ、説明し、ときには説得するような態度を見せていたらどうなっただろうかと、想像してみずにはいられないのである。
第1波において、当時の西浦博北海道大学教授は「8割の人の行動変容が必要」ということを述べた。ということは、大まかにいえば8割の人が政府の「要請」に賛同して、行動を変えなければならないということだ。感染抑制に必要な数字は状況に応じて変化するにせよ、この数字は政治的文脈に置き換えてみれば相当な数字である。例えばこの間、国民の一部である、満18歳以上の有権者の投票率でさえ、到底8割に満たない水準を推移している。
(注2)類似のものとして、2020年2月25日に政府新型コロナウイルス感染症対策本部が「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定。またのち8月28日には同本部が「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」を公開している
(注3)第13回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(11月11日)に提出された資料2-5「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」の最終ページを参照
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