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憲法53条・臨時国会召集裁判の意味

議会制民主主義を支えるもの

志田陽子 武蔵野美術大学 造形学部教授(憲法、芸術関連法)

日本国憲法における議会制民主主義

 日本国憲法の制度全体を支える民主主義観は、単なる多数決ルールではなく、熟議と循環の民主主義である。

 国会の機能は「立法」――政策決定や予算の審議採決――だけではない。それ以外のさまざまな機能を果たすことによって、あるべき民主主義の循環を支えることが求められている。

 たとえば憲法は、50条(不逮捕特権)と51条(議院内の発言が法的に責任に問われないルール)によって、議員の議会への出席と自由な発言を特別に重視している。また、国政調査権(憲法62条)やその他の質問・質疑の全般は、国政とくに行政への民主的コントロールを確保するためのものである。そして国会の本会議は国民に公開されなければならない(憲法57条)。国民はこれによって国会の議事の様子を知る権利を確保し、次の選挙(15条)での判断材料にすることができるし、請願(憲法16条)や世論形成(憲法21条・表現の自由)を通じて民主プロセスに参加することもできる。日本国憲法における民主主義は、こうした循環(サイクル)を無限に繰り返していくようにデザインされた民主主義である。

 今、この「循環系」のあらゆる場面で機能不全が起きていることは周知のとおりだが、憲法53条問題も、この一連の問題の中に位置づけられる。

議院内閣制と政党政治の中の53条

 たとえば、53条後段に基づいて臨時会の要求があったとき、内閣の閣僚や与党所属の議員は、「今期懸案の法案は可決されたのだから、これ以上の議事に時間を使いたくない」「もう勝敗はついたではないか」という気分を感じるかもしれない。しかし、「まだ国会で質(ただ)すべき事柄がある」「この議事を通じて国民に知らせるべき事柄がある」と考えた国会議員が一定数以上いた場合には、この議事の要求を黙殺することは許されない、というのが53条後段の内容である。

 日本国憲法が採っている「議院内閣制」(憲法68条)は、本来は行政を国会の信任とコントロールのもとに置くための制度なのだが、現実には、政党政治が組み合わさることによって、内閣に対する国会の独立性を確保することが難しくなっている。与党の幹部が内閣総理や閣僚の主だったメンバーを兼ねることになるため、内閣が提出する法案や予算案に与党所属の国会議員(数として多数派)がそのまま同調し、結果的に国会が内閣に追従する状態が起きやすいからである。そうした制度的・現実的前提がある中で、53条後段は、国会と内閣の関係をあるべき対等な関係へと是正するレジリエンス(自己修復)の仕組みを担っている。

拡大衆院解散の朝、雨にぬれる国会議事堂=2017年9月28日、東京・永田町

 予算や政策を多数決ルールで決めることだけが国会の役割だと考えるならば、上記の「気分」のほうが正しく、53条後段はなくてもいいことになるだろう。逆に、53条後段が存在するという事実から、日本国憲法が採用している議会制民主主義は、「議」の要素を不可欠の要素とするものだということがわかる。石造建築でいえば、41条「国権の最高機関」という言葉が塔や天守にあたるシンボル的価値をもつ一方で、53条後段は建物全体を構造的に支えている「隅石」(すみいし)のようなものである。

 現在、この53条後段が軽視され、空文化させられようとしていないか。今、その流れを止めないと、日本の民主主義は「議」の要素の抜け落ちた「数の支配」から抜け出せなくなり、致命的な劣化を被ることになる――。

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筆者

志田陽子

志田陽子(しだ・ようこ) 武蔵野美術大学 造形学部教授(憲法、芸術関連法)

武蔵野美術大学 造形学部教授(憲法、芸術関連法)。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(法学・論文博士・早稲田大学)。「表現の自由」、文化的衝突をめぐる憲法問題を研究課題としている。また、音楽ライブ&トーク「歌でつなぐ憲法の話」など、映画、音楽、美術から憲法を考えるステージ活動を行っている。 主著『「表現の自由」の明日へ』(大月書店2018年)、『合格水準 教職のための憲法』(法律文化社2017年)、『表現者のための憲法入門』(武蔵野美術大学出版局2015年)、『あたらしい表現活動と法』(武蔵野美術大学出版局2018年)、『映画で学ぶ憲法』(編著)(法律文化社2014年)、『文化戦争と憲法理論』(法律文化社2006年、博士論文)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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