右派・ソーシャルリベラル・ネオリベラルの三者鼎立の争いへ
2021年01月01日
「長期政権がつづいたあとの政権は短命に終わる」。去年、自民党元幹事長古賀誠がこう述べていたそうだ。たしかに、佐藤栄作内閣後の田中・三木内閣、中曽根康弘内閣後の竹下・宇野内閣、小泉純一郎内閣後の安倍・福田・麻生内閣と、自由民主党の歴代長期政権後の内閣は常に短命で終わった。このパターンが今回もあてはまりそうな様相で、2020年の幕は閉じた。
2018年に安倍晋三が異例の自民党総裁選三選を果たした直後から、後継総理・総裁をめぐるレースははじまっていた。2019年の令和改元の頃には菅義偉官房長官(当時)が次期総理・総裁候補に浮上し、官房長官であるにもかかわらず訪米を果たし、2019年の内閣改造では側近の河井克行、菅原一秀を重要閣僚に送り込んだ。
ところが19年末にこの二人は「週刊文春」の暴露により辞任に追い込まれ、河井は妻あんりとともに逮捕・起訴されるに至った。菅官房長官と緊密な関係にある和泉洋人首相補佐官もまた「週刊文春」の醜聞攻勢に晒された。菅の総理就任を嫌い、岸田文雄を後継総理に据え「大宏池会」構想の実現を狙う麻生副総理らの攻勢により、菅の後継総理の芽はいったん潰えることになる。2020年春のコロナ対策の指揮系統から菅は外された。
ところが、検察庁法改正の失敗が運命の歯車を狂わせることになる。「桜を見る会」をはじめとする安倍にかかわる刑事訴追を回避するために、官邸との調整役を長く務めてきた黒川弘務を検事総長に据えるのがこの改正の狙いだったが、世論の思わぬ反発により挫折する。
他方で次期総理の座を射止めたかのような楽観に陥っていた岸田文雄は、19年に自民党内人事で二階俊博と幹事長の座を争っていた。結局二階に押し切られ、幹事長ではなく政調会長に就任した岸田だったが、20年4月に政調会長として取りまとめた「減収世帯への30万円給付」の予算措置を二階氏に覆され、求心力を低下させていく。このように次期総理・総裁候補が次々と脱落していくなか、安倍総理は心身を疲弊させ、8月後半から総理退陣の情報がマスコミを駆け巡った。麻生臨時総理の声もあがったもののそれも早々に潰え、二階幹事長が電撃的に菅総理・総裁支持を打ち出し、党内を制覇していった。
このようなプロセスを経て誕生した菅政権だが、安倍、麻生サイドはいくつかの条件付きで菅、二階サイドに妥協したと思われる。ひとつは、黒川の検事総長就任の挫折により懸念される検察の安倍への刑事訴追を抑え込むこと。もうひとつはあくまで短期の政権に終わらせるということだ。
つまり安倍を守るセットアッパー役として菅の総理就任を容認したのだ。ところが菅は総理就任直後から独自色をだし、本格政権をめざそうとする。安倍の側近官邸官僚であった今井尚哉首相補佐官を内閣参与に斥け、秘書官だった佐伯耕三を内閣官房付に左遷した。これでいわゆる「経産省派」官邸官僚は一掃された。
また安倍総理が「レジェンド」として継承を望んだ敵基地攻撃能力保有を見送り、徴用工をめぐる記述是正の指示を撤回した。さらには拙稿「限界ネトウヨと右翼ヘゲモニーの終焉」で指摘したように、菅総理は安倍政権の支持基盤であった右翼勢力を政権から遠ざけようとしている。極め付きは「桜を見る会」疑惑への検察の追及を容認したことだ。これは安倍の権威の切り崩しである。
「長期政権がつづいたあとの政権は短命に終わる」ことの原因のひとつは、長期政権下で蓄積され安定化した支持基盤を継承・再編し、自前の基盤に再組織化するのが難しいからだ。しかも安倍は後継者の育成を阻止することで政権の長期安定化を確実にしてきた。党内支持層の信頼が厚い石破茂を上から制圧する一方、イデオロギーが一致する稲田朋美を後継に据えようとするなど、党内の力学とバランスを踏まえて後継者を選出してきたかつての自民党とは著しく異なる手法をとった。「安倍しかいない」という状況が求心力を生んだぶん、後継総理の基盤はますます不安定にならざるをえない。
そもそも不安定なうえに、菅総理は与党内に派閥の基盤を持っていない。佐藤栄作後の田中、中曽根康弘後の竹下、そして小泉純一郎後の
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