乗り越えなければならない最大の壁は政策よりも党の組織
2021年01月03日
これまで考察したとおり、日本共産党の内政は、欧州の社会民主主義と同様の政策を追求するもので、政権参画への大きなハードルとならない。「革命」という語を用いているものの、暴力革命も無血革命も国家体制の転覆も指向していない。あくまで、議会制民主主義と資本主義の枠内で、実質的な社会民主主義の実現を目指すものである。
それでは、歴史的な経緯で独自に形成されてきた外交・安全保障政策はどうか。共産党の外交・安全保障政策は、マルクス主義や社会民主主義という政治思想よりも、戦前の官憲による党への弾圧や戦後の人々の戦争への危機感に大きな影響を受けて形成されてきた。よって、内政とは別に考察する必要がある。
第一に、日米安全保障条約は、短中期的な「民主的改革」の条件として、廃棄するとしている。綱領の第13項は「日米安保条約を、条約第十条の手続き(アメリカ政府への通告)によって廃棄し、アメリカ軍とその軍事基地を撤退させる。対等平等の立場にもとづく日米友好条約を結ぶ」と、している。また、その後は「いかなる軍事同盟にも参加せず、すべての国と友好関係を結ぶ平和・中立・非同盟の道を進み、非同盟諸国会議に参加する」としている。綱領よりも短期的な政策を示す「第一決議」においても「日米安保条約を国民多数の合意によって廃棄」するとしている。
ここは、政権参画に際し、共産党が難しい判断を迫られる点である。なぜならば、共産党単独政権の見込みがなく、他に日米安保条約の廃棄を主張する主要政党がないため、実現の見通しが立たないからだ。一方、政権に参画し、党幹部が国務大臣となれば、日米安保条約に基づく法令を執行する立場となる。外交や安全保障を直接に担当する大臣でなくても、内閣は合議体として連帯責任を負うため、民主主義を擁護する政権において、内閣の方針と党の方針は違うなどの屁理屈的な言い逃れは政権の性格に反することになる。
さらに、参画する政権が日米地位協定の改定や辺野古新基地の建設中止に向けて動けば、一層のジレンマに陥る。改定された地位協定や新たな日米合意について、閣議決定や国会承認を求められるからだ。それらに合意することは、日米安保条約の存続に合意することを意味し、綱領や党大会決議に反することとなる。国会承認となれば、内閣と党は異なるとの弁明も通用しない。
そのため、共産党が政権参画するに際して、少なくとも日米安保条約に関する考え方を再整理する必要がある。同条約の主な要素は、①アメリカの日本防衛、②日本のアメリカ世界戦略への協力、③日米の恒久的な不戦の3つである。2000年頃から自民党政権は②の機能強化に努め、安倍政権のいわゆる安保法制はその集大成であった。一方、立憲民主党は綱領を読み解くと、①②の弊害の改善を通じて、③の機能を強化しようとしている。つまり、日米安保条約に基づく日米安保体制には、共産党の求める対等・平等の関係を基礎とする健全な日米関係が含まれ得る。
再整理の論点は、日米安保条約の弊害の改善を優先して実を取るのか、それとも条約の廃棄を勝ち取れるまで政権参画を諦めて名を取るのか、どちらかの選択になる。それを判断し、必要に応じて綱領や党大会決議に反映させることが、政権参画へのポイントとなる。
第二に、自衛隊については、党大会決議で憲法違反とする一方、綱領では憲法違反と明示せず、微妙な違いがある。党大会決議は「自衛隊は憲法9条に明確に違反」と示す一方、綱領には憲法違反との指摘はない。「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」としている。論理的には、自衛隊を縮小しても自衛隊のままであり、大会決議での憲法違反との指摘と整合しない。
この点も、政権参画に際して、再整理の必要がある。野党ブロックの多数派である立憲民主党は、安倍政権の安保法制に反対し、安倍政権が提起した敵基地攻撃能力の保有に対しても批判的である。そのため、政権政党となった場合、軍縮の方向に舵を切る可能性は高い。一方、前述したとおり、規模や予算を縮小しても、自衛隊は自衛隊のままであり、共産党が与党となった場合、国務大臣や与党として自衛隊の存在と予算を認めるのか、問われる。
再整理の論点は、自衛隊の規模や装備を違憲状態とするのか、それとも自衛隊の存在そのものを違憲とするのか、どちらかの選択になる。前者であれば、国政選挙の一票の格差と同様に、改善して違憲状態を脱することが求められ、政権参画と大きく矛盾しない。他方、後者であれば、縮小した自衛隊であっても違憲として認めることにならず、他党との連立は難し
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