三浦俊章(みうら・としあき) 朝日新聞編集委員
朝日新聞ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長などを経て、2014年から現職。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
内外の不安定要因を抑えて自由民主主義を守るという重荷を課された老政治家の実相
「アメリカは戻ってきた!(America is back!)」。
昨年11月の大統領選で現職のトランプ氏を破ったバイデン候補は力強く宣言した。この4年間にうんざりしてきた人々は安堵した。人種やイデオロギーをめぐる対立をあおり、自国第一主義を突っ走ってきた時代はこれで終わるのだと。
しかし、この4年間でアメリカも世界も大きく変わった。バイデン次期大統領のもとで、分裂したアメリカ社会は元に戻るのだろうか。国際協調主義は復活するのだろうか――。
それを探るために、バイデンという政治家は何者なのか、人物像から検討してみよう。
昨年のアメリカ大統領選で民主党支持者たちが熱狂したのは、トランプ大統領という敵を倒したからであり、単にバイデン氏への期待や希望ではなかった。12年前にオバマ氏が当選したときとはそこが違う。あのときは、初のアフリカ系アメリカ人の大統領、47歳という若さで、聴衆を熱狂させる弁舌と、「チェンジ!」というメッセージをもって登場してきた人物に、アメリカは未来を託したのだった。
2008年にオバマ氏がバイデン氏を副大統領候補に選んだとき、その選択は驚きをもって受け止められた。オバマ氏の熱狂的な支持者たちには、理解しがたいことだった。彼らにとってオバマの選挙は世代間革命だった。ミレニアルと呼ばれる21世紀への変わり目に成年を迎えた彼らにとっては、上院議員を30年以上も務めてワシントンの政界に浸りきった老政治家(副大統領就任時で66歳)は、時代遅れの存在と見えた。
バイデン氏とオバマ氏を比較してみよう。
オバマ氏は東部の名門コロンビア大卒、さらにハーバード大ロースクール(法科大学院)卒で、在学中に法律雑誌の編集長を務めた。申し分のないエリートだ。
いっぽうのバイデン氏は地元の東部デラウェア州の州立大学卒で、ロースクールはニューヨーク州の私立大シラキュースを出ているが、卒業成績は芳しくない(85人中76番だった)。
オバマ氏の雄弁に対して、バイデン氏は度重なる失言で有名だ。1973年以来連邦上院議員を務めているため、過去の法案への賛否を点検すると、今日の視点から見れば差別撤廃や女性の権利尊重の面で問題のある投票行動も目に付く。泥沼に陥ったイラク戦争にも賛成している。
そんなバイデン氏を、なぜオバマ氏は副大統領に選んだのだのか。
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