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ブラック・エレファントに試される人類

新型コロナに揺れた2020年……検証と新年への展望

花田吉隆 元防衛大学校教授

 2020年、新型コロナウイルスによるパンデミックは世界を未曽有の混乱に陥れた。この一年で8000万人以上が感染、死亡者は少なくとも170万人に上る。世界全体のGDPは7%押し下げられ、一部を除き未だ回復の兆しがない。

ジャカルタ東部の「コロナ専用墓地」。1週間前は更地だった場所が、埋葬された約200人の墓標で埋め尽くされていた。感染拡大による死者の急増で、墓地の敷地が不足しているという=2020年9月29日

「先送りの習性」を突いた感染症

 感染症の危険はかなり以前から指摘されていた。テロと感染症は、常に今後起こり得る脅威のトップとしてG7など様々な国際会議の議題に取り上げられていた。しかし、テロはともかく、感染症は議題には上っても、人々の熱心な議論の対象となることはなかった。

 これはブラック・エレファントといわれる。誰もが、危機がいつか起きることは分かっていながらその対処を先送りする。ブラック・スワンが、起こりえないことが、ある日突然出現し人々を混乱に陥れるのとそこが違う。

 従って、ブラック・エレファントである今回の感染症は、一言でいえば「人類のスキを突いた」のであり、「スキは、分かっていながら対応しようとしなかった結果生まれた」。

人と車がほぼ消えたパリのシャンゼリゼ通り。奥に見えるのは凱旋門=2020年3月18日
 問題は、感染症の脅威が今回一回限りでないことだ。現代社会は、高度に相互依存が進んだ複雑な社会だ。グローバル化が進行し世界はますます一体化する。感染症にとり、蔓延のための絶好の条件がそこにある。

 我々は、いつ別のパンデミックが起きても不思議でない世界に住んでいる。従って、次の感染症に対する備えを怠ってはならない。それができるか、感染症は「人類の先送りの習性」をあざ笑い、我々を試している。

「気候変動」「格差」……炙り出された社会の歪み

 我々が試されているのは気候変動でも同じだ。地球は悲鳴を上げ、それは今や誰の目にも明らかだ。最早一刻の猶予もなく、直ちに行動しなければならない。

 しかし、我々の欲望がこれに抵抗する。我々は、18世紀に始まる産業化の結果、巨大な果実を手にした。気候変動は、その代償だ。気候変動に取り組むことで、果実の一部を手放すことになりかねない。人類は、なかなかその覚悟を決められなかった。今ようやく、それではいけないとの認識が広がってきた。

 もっとも、我々は、気候変動への取り組みにより新たな果実を手に入れられるのではないか、と考えている。いずれにせよ、気候変動をもう一つのブラック・エレファントにしてはならない。

スイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)本部で記者会見するテドロス・アダノム事務局長=2020年9月21日、国連のインターネット放送UNWebTVの映像から
 パンデミックは、現代社会の歪みを炙り出し、問題を加速したといわれる。現代社会の最大のひずみは格差だろう。

 格差は、2008年、リーマン・ショック以降急速に拡大し、現在のデジタル化が一層の拍車をかけている。今や、格差は我々の許容限度を越え、社会を維持不能にさせかねない勢いだ。実に、現在の資本主義の在り方そのものが問われているといっていい。資本主義は、自由競争という建前すら喪失したのではないか。

制度自体にメスを

 パンデミックは、世界が格差で軋みつつあるところを襲った。そして、格差をさらに広げた。驚くなかれ、このパンデミックのさなか、巨大テック企業のGAFAは4社で市場価値を対年初比45%増大させ、世界の超富裕層はその資産を2兆ドル積み増した。これに対し日経は、FAO報告書等をもとに、コロナで絶対的貧困層が1.3億人(最大値)増加すると試算する。

 今の制度が、格差是正に有効に対処できないとすれば制度自体にメスを入れねばならない。巨大テック企業の規制やベーシックインカム導入の試み、ESG投資の推進等、様々な動きが見られる。これもまた我々に突き付けられた待ったなしの課題だ。

歪みは政治にも噴出。吹き荒れるポピュリズムに想定を

トランプ大統領と分断される米社会の様子を伝える一連の写真「2020年 米社会分断の果て」(ランハム裕子氏撮影)。今年の東京写真記者協会賞を受賞
 現実に、格差がますます広がりつつある中、歪みはとうとう政治の世界で地表に噴出した。ポピュリズムが世界に吹き荒れる。
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