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アメリカに「二人の大統領」の悪夢~世界はこの“二頭政治”にどう備えるか

アメリカの分断・二極化の傾向はバイデン政権下修復されるどころか加速する

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 トランプ米大統領は年が明けて1月2日になっても、ジョージア州に向かって「1万1780票を見つけろ」と叫んでいる。その理由は、驚くべきことに「私が負けるはずがない」ということらしい。

 電話でそう指示を受けたジョージア州の州務長官は共和党員だが、すでに数回の再集計を実施して、「1万1779票差」で民主党のバイデン氏の勝利を認定している。

次期大統領選立候補を公言するトランプ氏

 さすがのトランプ氏も、バイデン新大統領の就任式がある1月20日までには、ホワイトハウスを明け渡すであろうが、これとてすんなりとはいく保証はない。われわれには予想もできない抵抗の秘策が用意されているかもしれない。

 最大の問題は、トランプ大統領がすでに4年後2024年の大統領選に立候補すると公言していることだ。そうなると、実質的には米国に二人の“大統領”が存在するような異例の状況が生まれるかもしれない。

 世界はそうした状況になることを覚悟して、これから米国に向き合わなければならない。とりわけ、米国と同盟関係にある日本は、きわめて難しい立場に立たされることになる。

ペンシルベニア州の選挙集会で演説するトランプ大統領=2020年9月、ランハム裕子撮影

党内外から批判される政権人事

 トランプ政権の4年間で深刻さを増した米国内の分断・二極化の傾向は、「国際協調」と「多様性」の重視を掲げるバイデン新大統領によって修復されることが期待されている。だが、これも一筋縄ではいかない。むしろ、大統領選への再出馬を掲げるトランプ氏が存在することによって、分断・二極化がいっそう深まる恐れが強い。

 バイデン氏はすでに次期政権の具体的な陣容を明らかにしている。伝えられる顔ぶれから浮かぶのは、やはり「多様性」である ワシントンポストの集計によると、決定した21の重要ポストのうち、10人が女性、12人が人種マイノリティーだった。

 副大統領のカマラ・ハリス氏をはじめ、財務長官(ジャネット・イエレン氏)や通商代表(キャサリン・タイ氏)といった重要閣僚に女性を登用、黒人初の国防長官(ロイド・オースティン氏)も登場する。同性愛者であることを公表し、同性婚もしているピート・プティジェッジ氏の運輸長官起用も話題になるだろう。しかし、ここまで「リベラル」に徹して、「分断より統合」を目指せるのか。

 だが、こうした多様性重視の人事は、既に党の内と外の両方から不満や反発を受けている。

 党内からは、革新派のバーニー・サンダース上院議員を支持した若い人たちから、経験を重視するバイデン氏の人選に落胆する声が上がっていると言われる。政権の主要メンバーにオバマ政権時代の役職者が多いからである。

 そして、党外、共和党、とりわけトランプ氏の支持者からは、「多様性」に強い拒絶反応がでているという。皮肉なことに、このバイデン流人事がトランプ支持層のさらなる固定化を強めている面がある。多様性を求めた人事が、結果的に米国の分断をいっそう深める結果を招いている。

ホワイトハウス ungvar/shutterstock.com

大統領再選は難しいバイデン氏

 トランプ大統領は現在74歳。バイデン次期大統領はそれより上の78歳である。4年後の大統領選では、トランプ氏が78歳。バイデン氏は82歳になる。

 今回、バイデン氏が大統領に当選できたのは、相手候補であるトランプ氏も高齢であったことも大きい。もし相手候補が60代と若かったら、当選は至難の業だったであろう。

 次期の大統領選の際、82歳になるバイデン氏は、再選を狙わず立候補しない公算が大きい。86歳まで激職である大統領をつとめるのは、さすがに無理であろう。

 仮にバイデン氏が立候補をすれば、トランプ氏が圧倒的に有利になるだろう。高齢問題にくわえ、これから4年間のバイデン政権の実績をトランプ氏が徹底的に攻撃するからだ。次の選挙に際しトランプ氏が「ようやく私もバイデン大統領の初当選の年齢になりました」とうそぶけば、民主党から高齢を批判されにくくなる。そんなことは、すでにトランプ氏は計算ずみであろう。

次期米大統領のジョー・バイデン氏=2019年11月2日、ランハム裕子撮影

「二頭政治」の三つの類型

 本稿の冒頭で、米国に二人の“大統領”が存在するような状況が生まれるかもしれない、と書いた。このように2人のリーダーが存在する「二頭政治」は、これまでも数多くある。その類型はさまざまだが、大きくみれば、①補完、②競合、③偽装――に大別されよう。

 ①は、たとえばドイツのように。大統領が元首として国を代表するが、実質的には首相が強い政治的権限を持っており、相互に補完的な役割を果たすという制度で認められた関係だ。英連邦諸国や日本といった「君主制」をいただく国も、この形に入る。

 ③は、ロシアの現状を頭に置いている。プーチン大統領とメドベージェフ首相が、互いにその地位を交換して独占してきた。これは憲法上の手続きの偽装に他ならない。

 ②は、古代ローマの「寡頭制」などを念頭においている。制度上というより、実質的に力が均衡する二人の実力者が、競い合って支配をする形だ。一方が合法的支配、もう一方が実力支配という形もある。

 日本では1980年代、自民党内の最大派閥を率いた“無冠”の田中角栄・元首相が、いわゆる“キングメーカー”として君臨、時の首相と対峙したが、こうした状況はまさにその好例といえる。ただ、これは両者が同志的関係だったが、今回の米国の場合は敵対関係にあるだけに、容易に収拾することができない。バイデン氏とトランプ氏もこれから二人の“大統領”がいあるかのような背中を向け合った「二頭政治」を繰り広げる可能性が高いのではないか。

社会の分断が加速するアメリカ

 トランプ氏は4年後の大統領選への立候補を明言することによって、今後の言動を選挙に向けた運動にすることができる。

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