円より子(まどか・よりこ) 元参議院議員、女性のための政治スクール校長
ジャパンタイムズ編集局勤務後、フリージャ―ナリスト、評論家として著書40冊、テレビ・講演で活躍後、1992年日本新党結党に参加。党則にクオータ制採用。「女性のための政治スクール」設立。現在までに100人近い議員を誕生させている。1993年から2010年まで参議院議員。民主党副代表、財政金融委員長等を歴任。盗聴法強行採決時には史上初3時間のフィリバスターを本会議場で行なった。
男社会の山登りの世界を独力で切り開いたガッツある女性は政治の何に失望したのか
「コロナ後」の新しい世界の社会経済システムを考え直す「グレート・リセット」の観点から、女性にからむ様々な問題を取り上げる連載「『グレート・リセット』と女性の時代」。3回目は女性政治家がなかなか増えない日本政治の構造と課題について論じます。
連載・ 円より子「グレート・リセット」と女性の時代
ヒラリー・クリントンと娘のチェルシーが書いた共著に、日本の登山家の田部井淳子さん(注)がガッツのある女性として評価されています。この田部井さんが、私に政界に出てもいいと言ってきたことがありました。私が参院議員だった1990年代半ばのことです。
(注)田部井淳子(たべい じゅんこ) 1939年9月22日生まれ。 女性として世界で初めてエベレスト、および七大陸最高峰への登頂に成功した。 2016年没。
それまで何度か会合でお会いしていて、私のやっていた「ニコニコ離婚講座」のこともよくご存知で、女性が出産すると働き続けられないこと、収入にも昇進にも男女差があり、そのことが離婚女性を貧困に陥れていることを分かっていてくださり、政治を変える必要があると意気投合していました。
しかし、まさか、彼女自身が出馬する気になってくれるなど考えていませんでした。女性の政治家を増やしたいと言う人でも、自分は出る気はないという人ばかりでしたから。
政界は権力者の醜い争いばかりで、税金泥棒のような政治屋も多いし、そんな政界に身を置きたくないとでもいうような。それでいながら、女性の政治家を増やしたいなんて、何言ってんだ、と思ったものですが、女にできるものかと言われ続けても、エベレストに女性で初めて登頂した田部井さんはさすが!と感激しました。
出るなら、円さんのいる新進党で、6年間みっちり仕事のできる参議院がいい。スポーツ界でも男女差別が大きい。教育の場を変えていきたいと、田部井さんは情熱的でした。
メディアに漏れないよう、細心の注意を払って、党幹部に話したところ、福島県の県連トップは大喜びで田部井さんと会うことになったのです。
しかしながら、この会談は見事に失敗し、田部井さんの議員誕生ははかなく消えました。
勝たせてやるから心配することはない、あんたは、言われた通りにあちこちに挨拶に行けばいい。組織も金もつけてやる――。
そう言われれば、たいていの人は、安心するでしょう。俺に任せろと言った福島のドン渡部恒三先生には、善意こそあれ悪気など何もなかったのですが、田部井さんの性格と心理を理解していなかった。いえ、分かっていても、恒三流の話し方しかできなかったのかもしれません。
田部井さんは、女の分際でと言われても、男社会を自分の力で切り開いてきた人です。選挙のせの字もわからんくせに、言う通りにしていればいいという感じに、彼女はカチンときてしまった。
円さん、ああいう人たちばかりの政治の世界でよく生きてられるわねと、田部井さんはすっかりあきれ顔。私は、恒三先生の妻は歯科医で、ずっと共働きで、女性蔑視の考え方などない人だと伝えましたが、田部井さんは、「でも、あの人は、女性の政治家なんてお飾りだと思っているわよ。女はこうあるべきという考え方がふんぷんとしている」と言い
ました。
確かにそういう男性が多いのは事実。今だって、女性を立てておけば、支持率が取れるくらいにしか考えていない党幹部は、どの党にも多いでしょう。
「だからこそ、逆手をとって、チャンスを生かして、お飾りではないことを証明すればいいのです!」
そう話したのですが、翻意させられませんでした。縁がなかったんですね。
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